第40話 十二色
「これやねんけど」
隼太は綴から桜子経由で支給された万年筆の軸を、父親の前に十二本並べた。まだ白木状態である。
「ふうん。木地はきれいに出来とるんやな。機械で作っとるからバラつきもあれへん。ほんで、おんなじもんを作るんか?」
「え?」
「全部、おんなじ漆を塗るつもりなんかって聞いとるんや」
「そら、そらそうやろ…」
「せっかくの十二本やのにな。勿体ないな」
え? 隼太は気がついた。そうか、色の指定までは無かった。絵は別の人が描くって言うだけや。せやけど漆ゆうたら…。
「ウチでは黒の他には朱しか使とらんけど、他にも色はあるんやで。漆かて色鉛筆セットくらいの色は揃とる」
「そうなんや」
「外国の女の子に売りたいんやろ?」
「うん。女の子は赤の方がええんやろか」
「そんな単純やないやろ。それに上に描かはる絵のことも考えたらんとあかん」
「うん。見栄えする下地やないとあかんな」
父は足を組み替えた。
「っちゅうか、描きやすい下地やな。十二回、楽しんで描いてもらえるような下地、考えてみ」
父の言葉で隼太の視界は一気にカラフルになった。漆と言えば漆黒しか考えていなかった。それはそれで悪くはないが、今回は大量生産品ではない。オヤジ、せっかくの十二本って言うとった。
十二…って。
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翌朝、隼太は父親に一枚の紙を見せた。
「こんな色、あるやろか」
茜、真珠、萌黄、桜、翠、紫、群青、向日葵、空、柿、檜皮、漆
「ほぉ。これはどういう意味やねん」
「十二か月。せっかくの十二本やし、絵ぇ描いてもらう作家さんもあれこれ考えられるやろ」
父親は息子を見て微笑んだ。こいつ、思うたより成長しとんな。
「よっしゃ、用意したるわ。せやけどカラフルでも漆やで。下地から丁寧に仕上げんと、ちっさいよってにアラが目立つで」
「うん、判った。どれ位かかるってゆうといたらええ?」
「まあ急いで2ヶ月やな。色ははっきり言わんとき。変わっていくよってに出来上がりが想像とちゃうことあるからな」
「わかった」
隼太、生まれて初めての本番である。
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夏休みが過ぎた9月、桜子は隼太から和風万年筆の軸を十二本、受け取った。厳重に桐の箱に仕舞われ、紐が掛けてある。
「先にこっそり見てもええ?」
「あかん。お客さんに最初に見せるもんや」
「えー。なんや急に職人みたいなこと言うやんか」
「そらそうやろ。俺の初仕事やねん」
「まあええわ。ほんなら一緒に綴んとこ、行こか」
突然逞しくなった婚約者を、一瞬ほろっと眺めた桜子であった。
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「ほなら、開けます」
百花苑の店内である。桜子と綴が注目する。紐を解く隼太の手が少々震える。
「めっちゃ緊張してるやん」
桜子が囃すが、隼太は反応出来ない。蓋に手が掛かった。
「じゃかじゃかじゃかじゃか・・・」
ノリノリで肩を揺らす桜子を横目で睨んで、隼太は桐の蓋を開けた。
「うわーー! きれーーい!」
女子二人の目にハートが浮かぶ。隼太は心底、ほっとした。
「隼太、すごいやん!」
「立派な職人さんだねー」
少々恥ずかしい。下地から上塗りまで、半分は父が作ったようなものだ。
『鎌塚工房の面子かかっとるからな』 父は笑いながらせっせと指導し、自分でも手を動かしたのだ。
「みんな、色、違うんやねぇ」
「漆に見えないね。このままでもいい気がするけど、早速有田さんに言わなくちゃ」
桐箱は百花苑の金庫に大切に仕舞われ、桜子は隼太を少し見直した。
その日、綴は綴った。
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めっちゃきれい!和風ペンの下地。桜子のカレシ、やるじゃん! それも十二色。12って数字、文房具屋としては1ダースって結構馴染みだし、京都でも十二ヒトエとかあるけどさ、これ以外も身近にある事を、改めて感じました。時計もカレンダーも色鉛筆も12だよね。なぜ12なのか、綴は調べてみました! なんとダースはラテン語が語源だそうで、ラテン語って習ったことないから判んないけど、古代ローマの標準語だって(受け売り)。フランス語とかスペイン語も元はラテン語で、英語の元はフランス語ってことは、英語はラテン語の孫だね。なんかさ、英語習うよりラテン語習った方があとあと応用利く気がするんだけど。でも今ラテン語喋る人いないからダメかなー。そんなことより、十二色。まじきれい。色の名前もさ。倉良にあげたインクの色みたいに、みんな和風なの。全部忘れたけど、カレシさんが考えたんだって。桜子、惚れ直したんじゃない? (いいなぁ…)
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