第3話 転校生、浮く
初日は荷ほどきと収納に追われた。新しい高校の制服は硯が取って来てくれていた。特に変わった所もないブレザーとスカートで、パンツも選べるとの事だったが、これから暑くなる季節、当面はスカートでいいやとパンツは選ばなかった。ネクタイはエンジと紫が織物風に混ざった色調だ。この辺は公立である友桐高校より凝っている。
夜はかつて母が使っていたと言うベッドで眠った。大きな通りからは離れているせいか、夜間は静かだ。しかし初めての木造家屋はちょっと寒い。これはお母さんに相談しないと風邪ひいちゃう。綴は持参したダウンコートを布団の上に掛けて眠った。
翌朝、綴は真新しい制服に身を包み、母と共に新しい高校の校門を潜った。百花苑から歩いて10分ほどの至近距離にあるミッション系の女子高・聖六角女学院高校である。百花苑と同じく創立百年を超える総合学園だ。私立らしく凝った建物で、隣には中学校と小学校が併設されている。どちらもグラウンドは朝から賑やかだった。
新学期は前日から始まっているらしく、『女子だけやから、却ってお気楽よ』と、担任の先生は笑った。
綴はお決まり通り、2年C組の朝のホームルームで紹介された。
「転校生を紹介します。西條 綴さんです」
クラス中をさぁーっと感情の小波が撫でた。隣同士で顔を見合わせている。私立だから転校生って珍しいのかな。それとも訳ありと思われてるのかな。綴は仮面に覆われたクラスの空気が全く読めなかった。
「自己紹介、してくれる?」
先生に促され、綴はこっそり深呼吸をする。これで自分の立ち位置、価値が半分は決まるのだ。しかし凝ってはいけない。何しろ魔界の女学院なのだ。居並ぶのはあたしを品定めしようと待ち構える魔女の卵たち。そう、さり気なく…、
「あの、西條 綴 です。親の都合で横浜から来ました。えっと、山下公園とかレインボーブリッジのあるところです。よ、よろしくお願いします」
最低ラインは通過したかな…、綴は頭を下げる。パラパラと拍手が起こった。
「ほんなら、西條さんはあそこの空いてる席に座ってくれる? 出席番号順に座ってるから空けといたんよ」
「はい」
リュックを下げたまま、綴は示された窓際の後ろから2番目の席に向かった。みんな、見ないふりしてしっかりチェックしているのが判る。スカート丈、変じゃないよね。標準のままだし、ソックスは無難な紺色にしたし、お化粧はリップ以外はしていないし、髪もストレートのままだし、ネイルも省略したし…
ちょっとドキドキしながら椅子を引いて座る。えっとリュックはどうするのかな…。綴が机の脇を見ていると、後ろから小声が聞こえた。
「西條さん、リュックは横のフックに掛けるといいよ。今日はホームルームとかガイダンスばかりだから、筆記具だけで大丈夫よ」
「は、はい、有難う。えっと」
「酒向 倉良です。私も1年の途中から転校してきたの。よろしくね」
「うん、有難う。こちらこそよろしくお願いします」
小声で返す綴を周囲の目がさっと撫でた。レインボーって、さっき何言うてはったん? ひそひそ声が聞こえる。
え? もう浮いちゃった? なんで?
綴の座る椅子には、たちまち小さな針が立ち上がった。




