第33話 ホラー日記
酒向家ですっかり本棚の肥やしになっている世界地図帳。その陰にひっそり隠れているのは、父・達彦と亡き母・美和が高校生時代に綴っていた交換日記。倉良は父が寝静まったのを見計らってこっそり抜き出した。早速書いてみよう、今の私は天国のお母さん。そう、倉良は母の表現や言い回しの癖は、何回かの盗み読みですっかりマスターしていた。
§ タツ
驚いた? 久し振りにこれを書いています。 元気そうで良かった。倉良がもう高校生だなんて、時間って早いよね。
ありがとう。タツにはとっても感謝しています。私? 私は天国でご機嫌暮らししているよ。詳しく書くとバチ当たるから書けないけど、みんな見えてるからね。
倉良がタツのこと、いろいろお世話してくれているのを見ると、ちょっと切ないけど、でもやっぱり良かったって思うの。倉良がいなかったら、タツはとっくに再婚してるもんね。あ、再婚に反対って訳じゃないよ。私にはそんなことを言う権利はないってよく判ってる。タツの幸せを考えると、きっとその方がいいって判ってる。倉良がどう思うかは別にして。とは言え、ちょっとはヤキモチ妬いちゃうけどね。あー、未練がましくて自分でもやだな。ごめん。
じゃ、また書くね。身体に気をつけて。愛してる ♡
§
倉良は読み返して満足した。ラブレターなんて書いたことなかったけど、私、やれば出来るじゃない。字のクセもそっくりだし、お父さんは区別できないだろう。ついでに私自身のアピールも少々入れたしね。最初にしては上出来だ。いつ気がつくかな。倉良は日記帳を世界地図の隣に差し込み、ワクワクしながらその時を待った。
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その週末の朝、起床した倉良が顔を洗ってからリビングに入ると、父がぼんやりとソファに座っていた。
「お父さん、おはよう」
「あ、おはよう、あ、倉良か」
「当たり前でしょ。他に誰がいるのよ」
「そりゃそうだな。なあ倉良、人って死んだらどうなると思う?」
「朝からなによ。死んだら天国に行くって決まってるでしょ?」
「そうだよな…。あ、コーヒー入ってるから、パン焼くわ」
「いいよ、私がやるから。お父さん座ってて」
トーストを用意しながら倉良は気がついた。これはお父さん、交換日記を読んだな。ふふん、不思議な顔をしてる。倉良はクスっと笑った。優芽に報告…はもうちょっと我慢。で、次は何を書こうかな。天国での暮らしは怪しまれるかな。天国でのおばあちゃんの話にしようかな。
倉良はストーリィを考え始めた。




