第28話 はらはら
綴は硯からもらい受けたインクカートリッジを選りすぐり、小さな箱に詰めた。翌朝、学校に持参した綴は、預かったペンをまず倉良に差し出し、そして小さな箱の中身を倉良の机にぶちまけた。
「見つけたよ。ぴったり同じ色かどうかは判らないけど」
「え? えー? こんなに?」
「うん。倉良が欲しかった空色はさ、全く同じものはないかもなんだけど、これで代わりに出来ないかな」
綴はその中の一つを指で倉良の方へ押し出した。倉良の目がパッケージに吸い寄せられる。
「雪明?」
「そう。雪国ガールの倉良にぴったりかなって」
倉良の瞳が揺れる。
「書いてみていい?」
「勿論」
倉良はペンを分解すると、可愛いパッケージからカートリッジを取り出し、はめ込んだ。机の中からノートを取り出して、新しいページを開ける。そしてペンで〇をクルクルと試し書きする。
「き、きれい! 似てる! 全く同じじゃないけど、私、こっちの方が好き」
倉良はそのままノートに
『ありがとう つづり まじ感謝 ♡』
と書いてペンを置き、綴の手を取った。そこへ、
「おはよう。朝から手ぇ握り合って何ごっこ?」
優芽がやって来た。倉良はノートを持ち上げ優芽に見せる。
「ほら。綴が復活させてくれた! まじ魔法のお店だね、優芽の言った通りだ」
「へぇ、倉良が言うてたインク、あったんや」
「そ。もっといい色。雪を掘っていくとこんな色になるの。きっと立山の雪の底にある氷河の色だと思う」
「そらまた雄大な色やな」
頷く倉良の瞳もほんのり水色に光っていた。
+++
「ほんで、綴、こんなにいっぱいあったん?」
優芽が倉良の机の上に散らかるカートリッジ群を指さした。
「ああ、これね、みんな使用期限切れなのよ。売り物にならないからみんな持ってっていいっておばあちゃんが言うから持って来たの。倉良のペンは一本だからたくさんあっても仕方ないかもだけど、倉良、気が向いたら使ってみて。但し、本来の色から変わっちゃってるかもって言ってた」
倉良より早く優芽が反応する。
「ほんならタダってこと? ラッキーやなー、倉良」
「なんで、いちいちそう言う言い方するんやろ、大阪人は」
登校した桜子もやって来た。当然やろと嘯く優芽の陰から倉良が小さく手を振る。
「でも使ってみるね。ずっと同じ色だとすぐに無くなっちゃうし、色変もミステリアスでたまにいいかも」
倉良は頷き、桜子がその頭を撫でる。
「ほんなら倉良が交換日記を書いたあとのお父さんの反応、また聞かせてな」
「せやせや、それが一番楽しみ。お父さん、まじ怖がるんちゃう?」
結局みんな面白がってるだけにも見えるけど。綴は倉良の表情を盗み見た。
「うん、一発怖がらせてやる!」
倉良の目が笑っている。
ひえー、倉良、やる気満々だけど、まじ大丈夫なのかな。ハラハラ…。本気で怖がられたら交換日記そのものがお祓いされちゃったりするんじゃないの? お焚き上げとかされたらシャレにならない。綴は倉良の机にぶちまけたパッケージの中から、何気に薄紫色の小箱を手を摘み上げた。そこには…
『はらはら』
と書かれていた。
勿論、それはそっちの『はらはら』ではなく『雨がはらはら降る』の意味だったのだが…。




