第23話 心の保護にも
すると入口がガラリと開き、馴染みの顔が見えた。
「あ、滝岡さん、いらっしゃいませ」
「ごきげんさん、今日は綴はんが店番どすか?」
「いえ、おばあちゃんの当番なんだけど、今、二階に上がっています。あたしはちょっと探しものです」
「そんなん硯はんに聞かはったらよろしのに」
「それが早いんですけど、勉強のために」
「そら感心やなあ。どんなもんを探したはるの?」
綴は一瞬考え込んだ。スタバの紙袋って言っても判ってもらえるのだろうか。
「えーと、紙を防水にする道具ってないかなって」
「そらまた難しいもんを探したはるんやな」
言いながら滝岡さんは売場の奥へトコトコ進み、やがて何やら手に持って来た。
「これで行けるんちゃうかな」
それは細身で小さなスプレイ缶に見えた。
「何ですか?」
「フェキサチーフ言うてな。絵を保護するスプレイや」
「絵を保護?」
「絵具でもパステルでも、描いた絵を指で擦ったら、折角描いた絵が汚れたり掠れたりしますやろ。せやからこれをシュッてかけて、絵を保護しますねん。なんぼかは水にも強うなるんちゃうかな。防水スプレイ言うのもあるけど、荒くたい気ぃするし、紙にかけたらブヨブヨになる気ぃするよってに」
へぇー。世の中にはいろんなものがあるんだな。綴は滝岡さんからスプレイ缶を受け取った。
「絵具の種類によって、これも種類があるんやけど、防水だけやったらこれでよろしやろ」
「有難うございます。お客様に教えて頂くなんて、ちょっと恥ずかしいけど」
「お客さんやからと違うて、歳の功や。齢重ねたら、見えるもんも増えていきまっさかいにな」
滝岡さんは笑った。
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次の日、綴は朝一番に桜子に捉まり、『昨晩の隼太のメッセージ』についてノロケを聞かされたが、途中で振り切って優芽にフェキサチーフの缶を持って行った。
「昨日聞いたんだけどさ、これって絵の保護をするコーティングスプレイなんだって。これをスタバの袋の紙にスプレイしたら、ある程度は防水になるかもって。パス入れを洗濯しちゃったお友だち、どうせまたペーパークラフト、作るんでしょ? その時に使えるからさ、あたしからプレゼントするよ」
優芽は缶を受け取って眺め回した。
「へーぇ、そんなもんがあるんか。初めて見た。流石は文房具屋さんやな」
「お友だちに渡してあげて」
「うん。だいぶ落ち込んどるから助かるわ。綴、有難う。今度マクドで返すわ」
「やった! ビックマックセット二つ分だよー」
「え? そんなにすんのん?」
優芽は驚いてフェキサチーフを花束のように押し抱いた。
「落ち込んだ心の保護にも使えますから!」
「それ、お店のキャッチフレーズかいな」
優芽は笑い、大事そうにスプレイ缶をスクールリュックに仕舞った。
その日、綴は綴った。
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もういいよ、桜子の毎朝ノロケ。予想以上でゲップ出そうだ…。昨日びっくりした優芽の友だちのパス入れ洗濯事件。
スタバの袋でパス入れをリメイクするって素敵な話だけど、『たまに洗濯するやろ』って優芽の意見は理解不能。関西の伝統なのかい? 結果的にはまた滝岡さんに助けてもらってコーティングスプレイ渡せたから、あたし的にはOK。優芽のお友だちの落ち込んだ心もコーティングしちゃえるのよ。 そう、文房具屋は落ち込んだ心を回復させる魔法のお店なんだよ。カラフルで可愛い文房具を見ていたら嫌なことも忘れるでしょ。まるでお花畑よ。そうか! それでここは百花苑! これ、使えるな。
PS.しかしですね。フェキサチーフがあんなに高いものとは思わなかった。お小遣い、飛んじゃったよ。優芽のことだ。ビックマックセットを二つ、いっぺんに奢ってくれそうだ。ますますゲップ出ちゃうよー
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