第22話 天国と地獄
「綴、昨日はありがと」
翌朝、桜子の顔色が良い。
「ううん。何か進展した?」
「あのあとLINE入れてみてん。直してもろた写真も添付して、ウチはまだ終わった思てへんって」
「へぇ、そうなんだ」
「ほんなら珍しく既読ついてな、俺も考え直すって。大学はまだ諦めてへんけど、ウチが言うたみたいに両立させて、ほんでウチとの話も続けたいって。実は嵐山で放っとかれてから反省してんて。自分からはよう言いださんかったみたい」
「良かったじゃん」
「まあ、お父さんに話してみんと、まだ判らへんねけど、アイツ、あの写真見てやっぱりウチのことは手放したないって強烈に思たって」
「あれま~」
これってノロケじゃんか。綴は口に出さず桜子の頭を撫でた。昨晩、日記を書きながら考えたのだ。逆境になるほど恋は燃えるもの。既に周囲を巻き込んでいる二人には、これからも様々な危機があるだろう。だけど、七回転んでも八回起き上がればいいんだと。そう思って綴は気がついた。七回転んだら、七回起き上がればいいんじゃないの? 調べてみると、人間は『寝た』状態で生まれるので最初に起こしてもらう。この『起きる』を加えると八起きになるそうだ。豆知識も増えた。
綴はほんのり桜色に染まった桜子から優芽に目を移した。なんだかぶすっとしている。こっちも何かあったに違いない。綴は優芽の前に移動した。
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優芽は綴をギロっと睨んだ。
「なんか嬉しそうやな、綴」
いきなり喧嘩腰である。
「朝から桜子のノロケを聞いたからね」
「ノロケ? 桜子、天国気分かい。腹立つなぁ」
「なんでよ」
「私、五千円損したんやで。こっちは地獄や」
「ご、五千円?」
高校生にとっては大金である。
「お小遣い、1ヶ月分飛んで行った」
「なんでー?」
「中学の時のツレが一緒にひらパー行こう言うて来て、チケット代、先に渡しててん。前売りの方が得やからって」
ひ、ひらぱぁ? ってなんだ? チケットって言うからには映画とか?
「ほんで買うたチケットをパス入れに入れてたんやて」
綴は一応頷いた。そこは何となく判る。
「ほんで、パス入れごと洗濯したんやて」
「洗濯?」
「それはたまにあるやろと思うねん」
あるんかい!
ブラウスのポケットにでも入っていたのだろうか。でもパス入れってレザーとかビニール? 洗濯しても何とかなる気がする。
「パス入れの中なら大丈夫じゃないの?」
優芽は手を組んで頭の後ろに回した。
「それがあかんねん」
「なんで?」
「パス入れって紙で作ったヤツやってん」
「紙?」
「うん。ペーパークラフトって言うの? 動画で見て作ったんやて。スタバの紙袋のリメイク」
うわー、スタバの紙袋か…。薄っぺらではないにせよ、洗濯機には敵わなさそうだ。
「それもドラム式とちゃうから渦潮に巻き込まれて、ふにゃふにゃバラバラで、再生不能って言うてきた」
「じゃあ、電車の定期は?」
「それは無事。普通のピタパやったから。反対にドラム式やったら乾燥までするから、熱でピタパあかんらしいよ」
ぴたぱぁ? ひらぱぁの兄弟か??
その時チャイムが鳴り、綴は中途半端なまま席に着いた。激流でバラバラになったチケットは、余程きれいに繋げなければ交換してもらえないだろうし、印刷が滲んでいたらそれも難しかろう。
綴は授業中、こっそりとスマホを触り、スタバ紙袋のリメイクを調べた。なるほどティッシュ入れやらポーチやら財布を作っている人がいる。資源リサイクルにもなるし見栄えも悪くない。紙質だって悪くないから、少し濡れるくらいなら大丈夫そうだが、流石に洗濯機の激流には耐えられなかったのだろう。
その日、帰宅した綴は百花苑の売場を探った。




