第20話 桜の下の告白
「お待たせー」
綴はトレイ、いやお盆に載った和菓子と茶碗を、そーっと丸テーブルに置いた。綴は宿題も大抵ここでしている。
「あー、ふたばさんの豆大福やん!」
桜子にしては珍しくハイトーンが聞こえた。
「有名なんだよね。おばあちゃんが好きだからっていつもあるの。並んで買うんだって」
「そうや。大変やねん、この頃観光客も多いから行列やねん」
「あー、聞きつけた関東人が並ぶんだよね。地元の人には申し訳ないって、あたしも思うよ」
「綴も地元民やで」
「あはは、そうだった! じゃあ食べながら白状して。何だか判んないけど」
「ごめんな、ウチ、何も持って来いひんかった」
「友だちの家なんだから、そんなお構い要らないよ。さ、食べて食べて!」
桜子はそっと手を伸ばし、豆大福を齧る。んー、この甘さ、余計なことまで口がすべりそうや。
「あのな、いきなり来てしもたんは、綴の口封じのためやねん」
「く、口封じ? 魔術か何か?」
「せやで。こないだ学校で、花南らに何か言われたんやろ? 綴はきっと怪しんでると思うてな、嵐山での綴の記憶、消してしもたろ、思てな」
桜子は両手で長い髪をかき上げる。
「まじ怖いんだけど」
綴は豆大福を摘んだまま、じりっと下がった。
「うふふ。嵐山で綴に見られた男の子、綴が転校して来た日に寄ったマクドで、ウチらが喋ってる時に入って来た男の子と一緒やったやろ。覚えてる?」
「ああ、そう言えば」
一瞬桜子の表情が変わったのを綴は思い出した。やはり桜子の知り合いだったか。
「他の男子に『奢れー』とか言われてた子な、あの男の子はな」
桜子は言葉を切る。綴は次を予測する。やっぱりカレシなんだ。
「あの男の子、ウチの婚約者やねん」
綴の目が点になった。 こ、婚約者ぁ?! まだ高2なのにぃ?
「隼太って言うんやけど、漆職人の跡継ぎでな、家同士の関係もあってんけど、隼太は小学1年生の時にウチにプロポーズしてくれてん」
「小1で? それって『ごっこ』じゃなくて?」
「うん、真剣やった。それからつきおうてたし、嵐山でも見られてしもた。あ、やらしいことはしてへんで。あくまでも清く正しくつきおうてる」
「う、うん」
茶々を入れられる雰囲気でなかった。それに桜子が言うことは恐らく事実であろう。思ったより濃い話だ。綴は気を引き締め、話の続きを聞いた。
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それは春休みの一日、咲き始めた桜を見ようと、桜子とその婚約者、鎌塚 隼太は二人で出掛けた。
「きれいやなぁ。これ、何分咲きって言うのん?」
「うーん。三分咲きくらいちゃうん」
大して花も見ず隼太は答える。桜子はさっきから不審感を抱いていた。隼太が暗いのである。案の定、
「桜子、ちょっと聞いてもらいたいこと、あるねん」
「ふうん、なに?」
桜の木に隠れるように、隼太は移動し、桜子の顔も見ずに言った。
「俺、大学に行きたいねん。行こうと思うてる。せやから漆職人にはなられへん」
「えー? お父さんとか、ええってゆうてはんの?」
「まだゆうてへん。そのうち様子見ながらゆうつもりや。俺が漆職人になるよってに桜子とは婚約しとったけど、職人にならへんねやったら婚約者面出来ひん。せやから、その、婚約は解消したい」
最後は消え入るような小声だった。桜子はムカついた。
「大学行くのと漆職人になるのって両立出来るやん。初めから諦めてどうすんの」
隼太はオドオド答えた。
「そんなんでは性根入った職人になられへん。中途半端は嫌やし、他にしぃたいこと出来るかも知れへんし」
「そっちの方がよっぽど性根入ってへんのちゃうん。ウチは隼太の仕事と結婚するん違うえ。隼太、いつからそんなあかんたれになったんよ!」
隼太は更にオドオドする。
「せやかて、桜子は紅梅堂を継がんとあかんやろ」
「そんなん、まだ判らへんやん!」
「職人やない俺なんか、桜子とは釣りあえへん…」
パシッ!!
桜子の掌が隼太の頬を打った。
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「ウチ、隼太を引っ叩いてしもてん」
桜子はハンカチを取り出して目に当てた。




