第17話 心の消しゴム
女の子は店に入るなり叫んだ。
「あの! 海クン、ここで何してたんですか?」
「え? あなたは誰?」
「私は海クンの隣に座ってる石田 乃絵留です。海クン、お姉さんに誑かされてるっぽいと思います。前にもこのお店の前で中をずっと覗いてて、その日はそのまま帰ったけど今日は入って行ったから、え? とか思って。お姉さん、責任取れるんですか?」
同じく五年生の乃絵留は綴を真っ直ぐ見つめる。綴は呆気に取られた。なんなんだ今日は。落ち着け綴、相手は子どもだ。
「言ってることがよく判んないよ。確かに海クンはさっき告って行ったんだけど、勿論お断りしたよ。もしかして、乃絵留ちゃんだっけ、あなたは海クンのことが好きなの?」
乃絵留はコクンと頷いた。
なんだ。もうちゃんと候補者がいるじゃない。ちょっとおしゃまな同級生が。しかし、なんであたしは大人と子どもって両極端なジェラシィの対象になっちゃうんだろ。今度はどう捌いたもんだか…。
綴は売場を眺めて思いついた。乃絵留の殺意めいた視線を感じながらファンシーコーナーに行くと、消しゴムを一つ取り上げる。そしてレジを叩き、自分の財布からコインを取り出してレジに入れた。乃絵留は綴の動きを何も言わず見つめ続けている。きっと彼女にも解決法がないのだろう。綴は消しゴムを持って乃絵留の前に立った。
「じゃあさ、これをあなたにプレゼントする。乃絵留ちゃんが彼の気持ちをこれで消してあげて」
「えー?」
「あたしもね、急に告られちゃったからどう言っていいのか判らなくて、もしかしたら海クンを傷つけちゃったかも知れないの。少なくともお断りしたからさ、海クンは嫌な気持ちだと思うのよ。でもさ、高2の女の子が小5の男の子と付き合い出したらニュースになっちゃうでしょ。誘拐と思われるかも知れない。あたしだって未成年なんだから、責任なんてとれる訳ないでしょ? だからそもそもムリな話なの。だけど海クンはそんなこと理解していなくて、たぶん、単に振られたって思ってるかもなのよ。めっちゃつらい気持ちなの。だから乃絵留ちゃんの心の消しゴムで消してあげて。一緒にこれでゴシゴシしたら、ちっとはウケるかもよ」
綴は乃絵留にも微笑んだ。乃絵留は真剣な目で聞いていた。
「わ、判りました。断られたんやったら、私はそれでいいです。じゃあこれで私が何とかします。このキャラ、私も大好きやし、この消しゴムでウケも狙います」
綴は乃絵留の頭を撫でた。
「少しでも海クンが笑ってくれたら、もう乃絵留ちゃんの勝ちだと思うよ。そもそも消しゴムは身を削って記憶を消すものなの。傷も消せる魔法のツールだから、嫌な記憶はじゃんじゃん消してあげて」
乃絵留の目は大きく見開いた。
「そうします! 有難うございます」
表に出た乃絵留は、キラキラと輝きかけた瞳で道の向こうを見つめ、駈け出した。




