第16話 11歳の告白
「え? あ、いらっしゃいませ」
この男の子、前に来た子だ。お母さんがイチゴ大福を持って来てくれた。
「今度はどうしたの? あ、そう言えば、この前はイチゴ大福を有難う。美味しく頂きました。消しゴムも可愛くして返してくれて有難う。持ってってくれても良かったんだけどね、あの柄じゃあ使いにくいかな」
春日原 海は緊張した。とうとう来てしまったのだ。実は以前にも店に入ろうとしたのだけど、どうしても踏み出せなかった。だって人生初の告白をするんだから。
「あ、あの。お名前はなんですか? 僕は春日原 海と言います。五年生です」
「へぇ、海クンって言うんだ。カワイイね。あたしは西條 綴って言うの。高2よ。17歳だから6つ違いだね。また筆箱忘れたの?」
「いえ、今日はお願いがあって来ました。あの、前に借りた消しゴム、ここで売ってますか?」
「ああ、あれね、全く同じのはないみたいだけどね、あれってもう古いから。最近のシリーズならあるみたいよ。あたしも気になって探してみたんだ」
綴はレジ台を出て、売場に足を運んだ。
「えーっと、確かここら辺に…。あれ? ファンシーコーナーだっけかな」
ウロウロしそうな綴を海は呼び止めた。
「あの! もういいです。そうやなくて」
綴が振り返る。
「いいの? まあ男の子向きじゃないよね」
「ほんまは違うんです。あの、つづりさん、僕と付き合って下さい。ぼ、僕は綴さんが好きです」
海は言い切って頭を下げた。
「ふぇ?」
綴は惚けた声を出した。付き合ってって、この子、子どもじゃん。
「うーん。気持ちは嬉しいけど、海クンだっけ、小学5年生なんだよね。それはちょっとムリじゃない? 6つも違うんだよ。あたし来年成人だし」
「6歳違いとか、他でもあると思います」
「あのね、それはもっと大人になってから出会ったり決めたりしてのことでしょ。例えば36歳と30歳とか。それも男性が歳上ってケースが多いと思うけど」
「ほんなら、もうちょっとしてから、えっと、僕が中学生とかなったら付き合ってもらえますか」
「今からそんな約束なんて出来ないよ。海クンだって好きな女の子が出来るかもでしょ?」
海はあっさりと追い込まれた。なので絞り出すように
「ほんなら大人になっても好きやったら付き合ってくれますか」
「うーん。あたしのことを思い続けてくれるのは嬉しいけど、でもそんなの約束出来るわけないじゃない。大体あたしは海クンのこと、何も知らないし、海クンだってそうでしょ?」
それはそうだ。互いに何も知らない。海は項垂れた。
「海クンはカッコいいからさ、これからきっと人気出ると思うよ。海クンのことを好きになる女の子だってきっと出て来るし、好きな女の子だって出来るって。こんなオバサン相手にすることないと思うよ」
綴は小5男子に微笑んで見せた。
「わ、判りました。また大人になったら来ます。あ、でもその前にも時々来ます」
そう言い残すと一礼して、海はトボトボと店を出て行った。
綴は大きなため息をついた。初めて男の子から告られた…んだけど、幾らカレシが欲しくてもこういうパターンは予想もしなかった。あたしも子どもだけど、あの子は本物の子どもなんだもん。ああいう時は一体どうしたらいいんだろ。海クンを傷つけちゃったかな。
レジ台に戻って、掌に顎を載せた時、また引き戸が開いた。
「いらっしゃいま…」
今度は小学生と思しき女の子だった。今日ってお子様デイ? 綴は立ち上がった。




