第13話 初恋
「海クン、シャーペン変えたん?」
石田乃絵留が春日原 海の手元を覗き込んだ。海は先日百花苑で購入したダークブルーのシャーペンを握っている。
「え、うん、まあ」
「カッコええなぁ。海クンらしい色やし」
「そう?」
海の隣の席の乃絵留は何かにつけて海に纏わりつく。しかし決して乃絵留は嫌な子じゃない。むしろいい子なんだけど、男子仲間に冷やかされるので、海は困っていた。
「うん。広い海の色」
「そらそうやけど…」
「海クン、前に塾用やゆうてた消しゴムもめっちゃ可愛かったなぁ。私もあのキャラ大好き。あれって自分で買うたん?」
「まさか。貸してもらってただけ。たまたま消しゴム、忘れてん」
「えー、誰に借りたん?」
「あー、知り合いのお姉さん」
「ふうん」
乃絵留の不審げな顔色に気づかず、海は思いにふける。シャーペンの色って確かに海の色やもんな。あのお姉さんは僕の名前なんか知らないままにこれを選んでくれた。偶然なんかな。それとも…運命?
このところ授業中でも時々ぼーっとしている海を、乃絵留は訝しんでいた。あのシャーペンが原因かな。海クンがシャーペンをうっかり落とした時、私が拾おうとしたら、海くん、えらい勢いでひったくった。あれに固執する理由はなんやろう…。その知り合いのお姉さんと関係あんのかな。私の気持ちがシャーペンに負けているようで何だか面白くない。横顔を見つめてみるが、海くんの目はシャーペンに注がれたままだ。ああ、なんやろう、海くんの心を占めているのは。乃絵留もまた悩んだ。
海は乃絵留の視線をわざと無視して空想に浸り続けている。
そうや、またあのお店に行ってみよう。場所ならよう判ってる。塾に行く途中や。偶然通りがかっただけの店やったけど、選んでくれたシャーペン、貸してもらったあの消しゴム。めっちゃときめいてしもた。消しゴムはあの店にも売ってるんやろか。でもな、女子っぽい色柄やから、同じシリーズで男子用はないのか聞いてみたい。あの可愛いお姉さんに。
海の空想の中心は、六つも歳上の綴だった。




