表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/15

第12話 見ないふり

「うっほー、これが渡月橋かぁー! なーんか工事いっぱいしてるけど」


 日曜日、綴は母の美筆に連れられて、京都の景勝地、嵐山を訪れていた。本来なら修学旅行で訪れていた筈の地、聖六角女学院高校の修学旅行は北海道だと言うので埋め合わせに連れて来てもらったのだ。阪急嵐山駅から歩いてやって来た川べり、観光客が鈴なりの渡月橋を初めて見た綴は思わず叫んでしまった。橋はいいのだけども、その袂はショベルカーが川の工事をしている。


「何だろうね、このごろ川の氾濫が多いから、その関係の工事かな」


 母のイントネーションは綴と二人の時は標準語に戻る。器用な人だ。


「ふうん」


 道を渡って渡月橋の上流側の歩道を歩く。周囲の人たちが話す言葉が判らない。


「お母さん、みんな何人なにじん?」


 美筆はクスっと笑った。


「んなこと判りゃしないよ。英語じゃないし、フランス語でもないし。日本人に見えても大抵日本人じゃないのよ」

「えー、キモノ着てるのにぃ?」

「レンタル屋さんがあるんだって。女の子が着物をきれいに着てみたいって、日本人だけじゃないんだってさ。嬉しいけど、めっちゃ上手に着こなしている外国の女の子を見ると、ちょっと悔しいわね。ヤマトナデシコとしては」

「あ、判る気がする。男の子の視線が集まってるのもちょっと悔しい」

「ほぉ、綴もそう言う意識を持つようになったか」

「そりゃそうでしょ、花のJKなのよ」

「あー残念だったね、女子高で。おばあちゃんがめちゃ推しだったからね、聖六角ロクジョは」

「カレシ持ちは2割以下だってさ」

「あらー、綴は望み薄ね」


 喋っているうち渡月橋を渡り切り、人の波に押されるように横断歩道を渡る。綴は突然思い出した。


「お母さん! あれ、食べよう!」

「あれって?」

「ほら、これ! 賞味期限1分のたい焼き!」


 綴はスマホ画面を母に突き出した。


「へぇ、これってここのお店?」


 二人は既に目の前に来ていたのだ。中庭のようなスペースに、たい焼き屋を始め、飲食やお土産物屋などが並んでいる。


「お母さんは座る場所、確保して。あたし二人分買って来る」


 母に毛氈もうせんが敷かれた縁台を示しながら、綴は列に並ぶ。お金を払ってしばらくすると持たされたブザーが鳴動した。


 手渡された『あんバターたい焼き』を二つ持って母の元に向かおうとした綴の視界に気になるものが映った。


 え?


 中庭の奥の方のベンチに男の子と二人で座り、話をしているのは… 桜子ちゃんだ! えー、桜子、カレシ持ちだったんだ。2割にインか。ま、京美人だから当然ね。綴は観光客の影からそーっとのぞき見た。


 うん? あのカレシって…。


「はいお母さん。もう30秒は経ってるから賞味期限30秒だよ」


 たい焼きに挟み込まれたバターは既に溶け始めている。取り敢えずたい焼きを母に渡し、見ないふりをしながら、綴の瞳は桜子をロックオンしていた。誰だ、あのカレシ。見たことあるぞ。


 何とかたい焼きを食べ終えて、折り畳んだ包み紙を母に渡した時、綴に突如記憶が戻った。あんバターは脳を活性化するのかも知れない。


 マックだ!


 転校初日の放課後、倉良、優芽、桜子と一緒に行ったマクドナルド。あそこに後から入って来た男子高校生。一瞬焦った桜子の表情に驚いたんだ。冷静沈着な桜子にしては珍しい狼狽うろたえようだった。あの男の子を見た途端に。


 桜子は『ちゃんと紹介されないと…』とか言ってなかったか。何だったんだあの日は。ああ、ひょっとしてカレシがいること、秘密なのかな。あたしにも『べらべら自慢はやめときや』とか言ってたし、まあいいか。


 綴の瞳はロックオンを解除した。


+++


 翌日の朝、ホームルーム前に綴は桜子の机の前にやって来た。


「おはよう。ねぇ桜子。昨日嵐山にいなかった? ひょっとしてカレシと一緒に」


 楽し気に切り出した綴の言葉に、桜子は驚いて目を見開く。その途端、綴は後から引っ張られて廊下に連れ出された。クラスの女子が二人、目の前で手を腰に当てて仁王立ちだ。転校初日の自己紹介で、ひそひそ嫌みっぽいことを言ってた二人だった。


「な、なに?」

「桜子のことは放っといたって。あんたが見たことも言い触らしたらあかんで」

「え? なんで?」

「なんででもや。新参ものには判らん事情があるねん。判った?」


 二人の目の圧がハンパない。


「う、うん…」


 事情がさっぱり判らない綴は曖昧に頷かざるを得なかった。


「絶対やで!」


 二人は捨て台詞のように言い残し教室に入って行った。


 綴に針のむしろが蘇った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ