第24話 黒衣の男的な存在が現れたら大抵ボス的な存在だと思う件について
「……ありがとな、ムンク」
「ま、陰キャだけど役に立てたら光栄だね」
「またそういうこと言う。ま、お前らしいか」
沢山、本当に沢山泣き尽くした鉄槌はようやく僕を解放してくれた。危ない。本当に危なかった。後少しでも抱きつかれていたら、鼻血をぶちまけて出血死とかしてたんじゃなかろうか。
「……」
「……」
あんな事をした後のせいか、お互いの間になんとも言えぬ沈黙が漂う。
え、ナニコレ。モ○ハンで言えばG級クエスト並みの重圧感なんですけど。陰キャに対応できるキャパを軽く越えてるんですけど。
「「あ、あの……!」」
まさかの言葉と視線がバッティングしたんですけど。まじなんなのー。
鉄槌は露骨に顔を背けた。心なしというか、鉄槌の耳はなんか真っ赤に染まっていた。そういう反応はやめて欲しい。陰キャに変な期待を持たせるのはよそうね。事によっては即警察行きですよ。ほんとまじで。
「……」
「……」
再び沈黙が辺りを支配する。
この胃を締め付けるような沈黙を破ったのは他の誰でもない。ひび割れだらけの我が愛剣だった。
『ウルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!』
「え、なんだいきなり!? コイツどうしたんだよムンク!?」
「え、まじナニコレ。どしたの大剣ちゃん? ……大剣ちゃん?」
しかも唸り方が尋常じゃない。いつもの三倍ぐらいうなってる。シ○アかな?
『taken!!』
一瞬、鉄槌も僕も呆然とした。ひび割れだらけの歪な大剣は急にひびが広がったと思ったら、扇状に広がった。そしてひびにより増えたささくれが急に伸び、横たわるゾンビを飲み込んだ。
は?
え、いやうん。……は!?
たった今、起きた光景に目を疑った。目を擦っても消えたゾンビは消えたままだ。
え、じゃあやっぱり現実?
はぇー最近の大剣は変形して顎みたいになってソンビを補食するんだー。いや、んなわけねぇだろ。
「その大剣どうなってんだ……」
「いや僕にもさっぱりなんだな、これが」
呆れた鉄槌の問いかけに僕が答えれるわけもない。前々から変な大剣だと思っていたが、いよいよ変だけではすまない状況になってきた。
この世界が変わってから、レベルアップしてから使い続けているが、僕はこの自分の命を預けている武器について何一つ知らないままなのだ。
『ほぅ、検証に来たがこんなところで貴様に逢瀬するとはな。■■■■■の使い手よ』
唐突に響く見知らぬ声。はっと振り向くと、そこには全身が漆黒のローブに覆われた見知らぬ人が。
えっと、どちら様です?
◆
『ほぅ、検証に来ただけだったがこんなところで貴様に逢瀬するとはな。■■■■■の使い手よ』
「誰っ!?」
僕ら以外誰もいないはずのホームセンターに知らない声が響き渡った。何と言えばいいのか、不思議な声質のように思えた。聞こえてはいるのだが、脳がザワザワするといか、とにかく奇妙な感覚だった。
辺りを見回すと、後ろに漆黒のローブで全身を覆った人影が一つ。顔も隠れているから分からないが、体型や声質から男のように思える。
「男女の関係でもないし。ていうか、今なんて言ったの? 全然聞き取れなかったんだけど」
色々と気になる事を言っているがともかくだ。確か逢瀬って、やんごとなき男女が出会うあれでしょ。どうせ逢瀬するならグラマーの美少女としたい。TSしてから出直してきて欲しい。でもそれだとどっち道、男かあ。それはそれで嫌だなぁ。
『あぁすまない、どうも人の言葉は慣れなくてな。それと聞き取れないのは当然だ。彼の名は既に失われているからな』
「あっそ。ヤバそうだから斬るね」
「ムンク!?」
ズパアアアアンッッッ!!!!!
鉄槌の制止を振り切り大剣を振り抜いた。全身が気持ち悪いぐらいざわつき本能で感じたのだ。こいつはヤバイ。
「全く効いてない……?」
鉄槌が愕然としながら呟きを漏らした。
違う。効いていないどころじゃない。
すり抜けた?
ともかく効かなかったとは少し違う。なんの感触すらなかった。
『ふん、名すら失った貴様に何ができようか。今の貴様なぞ相手にする価値もない』
そういうと黒衣の男は僕らに一ミリの興味すら示さずこの場を後にしようとする。
「ちょっと待ってよ」
『頭が悪いのか? 我は見逃してやると言っているのだぞ』
黒衣の男の言葉には何一つ嘘が混じっていなかった。彼の言う通り、僕とでは格が違いすぎて相手にならない。肌でそう感じるのだ。それでも確認しなければいけない事があった。
「そんな手は煩わせないよ。さっきのゾンビ、アンタのせいでああなったんだよね? だって検証とか言ってたし」
「ムンク!? それってどういう!?」
鉄槌は目を剥いて僕に問い質してくるが、今は無視する。
『あぁ、中々に目敏いな。いや、ここは耳敏いと言ったほうが正しいか。その通りだ、アレは出来損ないの割には想像以上の結果を出してくれた。しかしあの程度、まだまだ始まりにしかすぎん』
「出来損ないって!? しかもアレはアンタのせいだって言うのかよ!?」
黒衣の男は鉄槌の問いを無視した。いや、反応すらしていない。まるで話す価値すらないと言わんばかりの態度だ。
しかし、やはりあのゾンビは作為的なものだったか。何となくそう思っていたが、今までのゾンビと比べ明らかに様子がおかしかった。いや、おかしい所ではない。アレは明らかに異様だった。ゾンビが喋るなんて有り得ないだろ。
『さて、収穫もあったところで我は帰る』
「!? それは幼馴染の赤紐!? 何でアンタが!?」
黒衣の男がその手に握っている物を見て動揺を隠せなかった。あれは明らかに陽乃の赤紐だ。間違えるはずもない。って言うことは幼馴染はここに寄っていたという事か!
『ふん、これ以上の問答をする気はない。次に逢瀬する時はもっとマシな状態になっている事だな。さもないと』
彼はその言葉の続きを言わなかった。ようは消すという事だろう。
「……は?」
そして次の瞬間、僕含め鉄槌はとんでもなく動揺する事になる。ゾンビが発生するような世界だ。既に目の前でどんなおかしい事が起きようが、受け入れる自信がある。
しかし、目の前で起きた出来事は僕らのキャパを大きく上回るものだった。
男は漆黒の翼を生やしていた。
そして彼はこちらの動揺を気にかける事もなく、飛び立ちこの場から消えてしまった。
当然、残された僕らは呆然とする他ない。
はは、何だよ。ゾンビものなのに今度は翼が生えて飛べるってか。遂にはファンタジーかよ。
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