第23話 泣いてる女の子に世の中は糞だと説いてる馬鹿がいる。ていうかそいつは僕だった件について
「ひぐぅっ……ふぅっ……ふぅ……!」
眼前に在るのは横たわるゾンビに濁った血に染まった鈍器バール。そして泣き崩れるツインテール美少女。
えぇ……僕にどうしろと。僕は単なる陰キャぞ。まじまごうことなき陰キャぞ。
「アダジ……ごろじた……! 先輩を二度も殺した!! でもじがたながったっ!!」
並みただならぬ決意があったのだろう。恋焦がれた相手はゾンビに成り果てていた。ここで目を背けたら、きっと他の誰かが殺される。
彼女はそれが分かっていた。だから、こうするしかなかったのだ。
「ムンク、ムンクさぁ。アタシ……間違ってなかったよね……?」
何か言葉を腹の底から捻りだそうとする前に抱きつかれた。
えっ
なんで。いや、まじなんで。この一七年の間で女性接触率が小数点を切っているためか固まる他ない。この時間だけで率が上昇しまくってるまである。
「う、うん。間違ってないよ。うん、そうだ間違ってない、うん」
自分でも呆れるぐらい気の利かない台詞。これだから陰キャは。まったく嫌になるね。
それでも何かしなければいけないと、そう強く思い手を必死に伸ばす。手が震える。異常なぐらい不審者と思えるぐらい震える。差し出がましいと思いながらも、震える手を必死に抑えながらも彼女を抱き返した。
「ムンクは……さ。最初に殺した人を覚えてるか?」
「えっと、あ、うん」
突然話しかけられた事もだが、鉄槌の『殺した』という単語に動揺した。心が冷えた鉄のように変化していくのを感じる。ある。僕が最初に殺したのは母親だ。僕だってそうしたいわけじゃなかった。そういう状況でしかなかった。
「アタシは……さ、覚えているよ。大切な人だったんだ。大切な人だったのにあの日、いきなり襲われたんだよ」
「アタシ、必死になって抵抗してさ。でも、泣いても叫んでも止めてくれなくて。気がつけば近くにたまたまあったバールを握ってたんだ」
後はお察しの通りさ、と鉄槌は力なく笑った。
きっとそれは彼女にとって耐え難い損失だったのだろう。辛くないわけがないし、事実彼女はとても震えていた。彼女の有り様はまるで自分が全て悪いと言っているように見えた。どうせなら自分が死ねば良かったと。
逡巡する。何か言わなければいけない気もするが、僕が何か言ったところで何になるのだろうか。事は既に起きてしまったのだ。
それでもその有り様は好きじゃなかった。だから僕は言わなければ、いや言いたい事があった。
「僕さ、ボッチなんだよね」
「……? そりゃ見れば分かるけど」
然り気無い一言に傷ついた件について。
っと。傷ついている場合ではない。更に言葉を続ける。
「ボッチだから友達はいないし、知り合いだって少ない。クラスでは当然、話す相手なんて一人もいないんだよね」
「そんな胸を張って話せる事じゃないけどな………で、それがどうしたんだよ?」
「まぁまぁ聞いてよ。僕はボッチであることは別に嫌じゃないんだよね。好きにラノベとか読めるし。ただ、あの周りのボッチである事を蔑むように、憐れむように見るあの視線が堪らなく嫌いなんだよね」
あの空気、ほんと最悪だよね。こっちが何したっているんだ。何も悪い事はしていないだろ。それなのに最低カーストのレッテルを貼ってくるばかりか、蔑み嘲笑いやがって。あいつら滅んでしまえ。
「あーそういう空気あるよなぁ」
「でしょ? でも僕自体、何も悪い事してないじゃない。誰にも迷惑かけてるわけでもないのにあの空気って最悪だよね。だから、僕はこう結論づけた」
結論。だから僕はこう思うわけだ。
「ーー世の中は糞。基本的に世界が悪い」
鉄槌は僕なかくや素晴らしい名言に、口をあんぐり開けてポカーンとしている。
「だからさ、鉄槌もあんまり気にしない方がいいよ。だって悪いのは世の中なんだし」
「ぷっ……あはははははははは!!!!! なんだそりゃ!! ほんとなんなんだそりゃ!!!」
鉄槌は僕の有り難い言葉を大変お気に召したようで、腹を抱えて笑っている。少しは気が紛れたなら何よりだ。
「僕さ小学校の頃さ校長先生の銅像を粉砕しちゃったんだけどさ。しこたま怒られたんだけど、銅像って経年劣化でいつか壊れるわけじゃん。つまり直接的な原因は僕かもしれないけど、経年劣化を引き起こした大自然とか過去に悪戯した悪ガキも悪いと思うわけよ。だから僕は悪くない 」
「いや悪いだろ。つーかそれだけ聞いてるとすげー最低な奴なんだけど」
鉄槌は僕の良い様に、呆れて半眼になる。なんて目を向けるんだ。僕は極めて真剣に言っているんだぞ。
「でもさ、ある意味間違ってる訳じゃないと思うんだよね。だってこの世の出来事って本当は誰か一人が引き起こす事なんてほとんどないんだ。結局、誰か一人が責任という名の割を食うんだ」
本当にそうだと思う。仕事だって上司は部下が全てやりましたとか言って責任を押し付けるらしいし。何それほんとに糞じゃん。死んでも働きたくないわ。
まぁ、つまり結論的に言えば世界が悪い。仮にそうでなかったとしてもこれぐらいの心構えでいた方が人生気楽に過ごせるのだ。
「なんだよお前。結構喋るし、ひねくれすぎてるじゃんか……」
「陰キャなりに気を効かせたんだよ。隠キャジョーク」
「あはは、なんだよそれ。……でも、ありがとな」
彼女は呆れた様に何度目か分からない溜息をついた後、優しく微笑んだ。先ほどの悲壮さはなく、見惚れるぐらい柔らかい笑みだ。とにかく彼女が少しでも元気になって良かった。
……ところで君はいつまで僕に抱きついているのかな?
隠キャ的にそろそろまじでキツいというか限界なので解放してくれないですかね。
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