EX1 彼女達の就寝前
「やったー! 新しい仲間が増えたねっ!!」
「そうですか……? 私は不安でしかないですけど」
時刻は既に深夜零時近く。ムンクがしばらくこの学校を拠点にすると決まった後のことだ。時刻も遅いと言うことで積もる話は明日にして就寝する運びとなった。既に教室に布団を敷き詰めて寝る準備は完璧。当然、男女で部屋は別室だ。
「たく、アイツは相変わらず危機感ないよな」
ツインテールが特徴の鉄槌千棘は心と冬雪の暢気さを見て小言を漏らした。
「ふふ、いいじゃない。それが心さんの良いところよ」
千棘はアリアの言葉に肩をすくめ溜息を吐いた。確かに心の良いところは何と言ってもあの太陽なような笑顔だ。事実、世界が変わってから彼女の天真爛漫な笑顔に何度も救われている。彼女がいなければきっと自分は自暴自棄になり今頃ゾンビ達の仲間入りしていたことだろう。
「なぁ……アリアさん、なんでアイツにあんな提案したんだ?」
「あら千棘、そんな事言うべきではないわ」
「そりゃ分かってるんだけどさ、でもアイツが安全な奴とは限らないだろ?」
ムンクがいない今だからこそ千棘は本音を吐露した。本人や皆の手前、言えなかったが男ということや根暗そうな雰囲気に不安を覚えなかったわけではない。
「ええ、でも彼は何だか必死だったからどうにもね」
血棘はそれ以上何も言わなかった。彼女にもムンクが真剣に幼馴染を探しているというのは伝わっていたからだ。会って間もない関係だが、なんとなくそれは嘘じゃないと千棘は確信していた。
「後ね、実は陽乃さんから聞いていたの。『いつか私を訪ねて少し捻くれた陰気な男の子が来るかも。もしかしたらというか多分絶対。というかむしろ来なかったら許さない』って」
「それがアイツなのか?」
「ムンク君には申し訳ないけど多分ね」
千棘はアリアの言葉に内心でクスリと笑った。確かにその通りの男子だ。ムンクは発言もそうだが、此方に近づこうとしない辺りぴったりな表現だと思った。
「それで彼女はこう続けたわ。『見てくれは胡散臭いかもだけど、いい人だし変な事する度胸もないから安心して。後、必ず役に立つから』って」
「へぇ……陽乃がそこまで言うなんて珍しいな」
千棘の記憶では陽乃は天真爛漫に見えてしたたかな一面があった。表面では明るくしていても、人物評価は冷酷なぐらいに正直だった。だから、彼女にそこまで言わせるムンクに少し感心した。
「そういえば、もう一つ。手を出さないように釘を棘されてしまったわね」
「いやいや、こっちも手を出すつもりなんかこれっぽっちもないんだけど……」
千棘は若干困惑した。
彼女に人の男をとる趣味もなければ、そもそもムンクみたいな根暗な男は好みとは正反対だったからだ。
「だいたい、アタシは……」
千棘は言葉を続けようとするが、言い淀む。彼女の脳裏に思い出したくもない記憶が浮かび上がったからだ。
「千棘……あまり思い詰めないでね。貴方は悪くないわ」
アリアはそんな千棘の様子を察して気遣うような言葉をかけた。慰めてくれるのは嬉しいが、微妙に発生した沈黙が居たたまれなく感じさせる。そう思った千棘は強引に話題を切り替えた。
「そ、そういえばアイツ、勘違いしたとはいえ冬雪に抱きついたけどあれはどうなるんだ?」
「そういえばそうね……あぁ見えて陽乃さんって嫉妬深いのよね」
「うへぇ……修羅場じゃん」
千棘は露骨に表情を歪めた。
修羅場という言葉を聞いてアリアには脳裏には陽乃の顔が過った。確かあの時、陽乃は笑っていたが何か違和感というか寒気を感じた。その時は気のせいだと今になって気がついた。あれは目が笑っていなかったのだ。
「どうしたんだよアリアさん?」
「いいえ、何でもないわ」
アリアは流石に千棘にこの事を言うわけにもいかないと思い、笑い誤魔化した。
「さぁ、みんな、もう寝ましょう。きっと明日はもっと良い事が起こるわ」
「はーい!」
「あの人がいるだけで嫌な予感しかしないですけど……」
「そう言わないの冬雪さん、きっと大丈夫よ……って千棘、どうしたの?」
能天気な心や未だに警戒心丸出しな冬雪、そしてそれを諫めるアリア。そんな彼女達を見て千棘は苦笑した。世界はゾンビが溢れる最悪な状態だが、彼女達との関係はとても得難く大切なものだと思う。だからアリアが言うように明日はもっと良いことが、彼女達との心地良い関係が続きますようにと。
「ううん、なんでもない。さ、寝るぞ」
そう言い、そして願い千棘は瞳を閉じた。
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