表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深愛~見つけられた日から、もう逃げられない~  作者: 白川桜蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/23

エピソード1-7

「そんなもんばっか吸ってたら、背が伸びねぇぞ」

 その一言に、美桜の表情が一変する。

「もう、うるさい!」

 勢いよく言い返したのには、理由があった。

 美桜にはひとつのコンプレックスがある。それは、身長。

 彼女の身長は百五十三センチ。密かに気にしている彼女にとって、その話題は軽く触れてほしくない部分だった。

 ムキになる自分を見て、爆笑する蓮。

 美桜は思わず眉をひそめた。

 普通なら、こんなふうに笑われたら嫌なはず。

 けれど今だけは、なぜかその笑いが心地よく感じられた。

 蓮が笑っているのは、彼女の身長ではなく――その素直な反応そのものだと、美桜には分かっていた。

 蓮があまりにも楽しそうに笑うものだから、美桜もつられて笑い出してしまった。

 目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら、美桜はふと思う。

(……こんなふうに笑うの、いつぶりだろう? いや、人前で声を出して笑った記憶なんて、そもそもあるかな……)

 そんなことを考えていると、蓮がさらりと言った。

「お前、笑ってた方が可愛いぞ」

 その一言に、美桜の頬がかっと熱を持った。

 自分の反応に戸惑い、どうしていいか分からないまま、美桜はただ蓮を見つめていた。

「帰りは施設の近くまで送ろうか?」

「ううん、電車で帰るから大丈夫」

 そう答えると、蓮は「そうか」と短く返し、どこか安心したように笑った。

(……しまった)

 美桜は心の中で後悔していた。

 いつもの場所で、始発が動くまで時間を潰すつもりだったのに――『電車で帰る』なんて言ってしまった。

 蓮がそれをどう受け取ったかは明白だった。きっと、今夜の最終電車で帰ると思われたに違いない。

 つまり、この食事が終わったら、実際に施設へ戻らなければいけなくなる。

(なんとかしないと……)

 美桜の頭は必死に回転し始める。最終電車の時間に間に合ううちに、一度帰ったふりをしてまた戻れないか――そんな計算を巡らせる。だが、時計の針はそれすら許さない時間を指していた。

 考え込む美桜の耳に、蓮の声が響く。

「じゃあ、駅まで送っていく」

(……やっぱり)

 胸の内にじわりと絶望感が広がった。それと同時に、この申し出は断らなければならないと美桜は感じる。

 けれど、蓮の真っ直ぐな視線が、彼女の冷静さをさらっていく。

(……だめだ、帰らないための言い訳が浮かばない)

 思わず、ため息がこぼれた。

 いつもならこういう時、もっと上手く立ち回れるはずなのに――今日はそれができなかった。

 結局、美桜の口から出たのは、短い一言だけだった。

「……うん」

 蓮はその答えを受けて立ち上がり、テーブルに置かれた伝票を手に取る。

「そろそろ出ないと、最終に乗り遅れるな」

「……そうだね」

(……乗り遅れた方が、私には都合がいいんだけど)

 そんな本音を胸の奥に押し込めながら、美桜も渋々と席を立った。

 レジの前で蓮が財布を取り出すのを見て、美桜も慌てて自分の財布を手に取る。

 その動きに気づいた蓮が、くすりと笑った。

「変な気を遣ってんじゃねぇよ」

 そう言って、美桜の分まで支払いを済ませた。

「ごちそうさまでした」

 店を出た美桜は、深々と頭を下げた。

「おう」

 蓮は軽く応えると、美桜に手を差し出す。

「……えっ?」

 その手を見つめて、美桜は不思議そうに首を傾げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ