エピソード6-8
「……勘違い、されやすい?」
「そう。蓮の彼女ってだけで、この辺の女たちの憧れの的だ。だから彼女気取りする奴もいる。でも蓮は勘違いさせたくないから、一度関わった相手とは、深追いしない。それが、暗黙の了解みたいになってるんだ」
「……そうなんだ……」
話し終えた頃、美桜の表情が少し強張っていたのに気づき、ケンは思わず焦ったような様子を見せた。
「……いや……その、話が逸れちまったな……あはは……」
気まずさを隠すように咳払いしたケンは、なぜか深呼吸を一つしてから言葉を続けた。
「それで、さっきの話だけどな……」
落ち着きを取り戻した様子のケンが、ゆっくりと語り始める。
「そんな蓮がさ、〝女目的〟で繁華街に通ってるなんて、正直信じられなかったんだよ。だから直接本人に聞いたんだ。そしたら、あいつ、素直に認めやがったんだぜ。あの蓮が、だよ? 『どんな女なんだ?』って聞いたら、『桜の花みたいな女』だって言うんだ。最初は冗談かと思ってさ。とうとう蓮も頭イカれちまったかって、慌ててその子を見に行った」
ケンは笑いながらも、どこか懐かしそうに目を細める。
「で、実際にその子を見て、蓮の言ってた意味がわかったんだ。肌は透き通るように白くて、唇も頬も淡いピンク。小さくて、儚げで、ちょっと触れたら壊れそうな感じ。まさに桜の花、って感じだった。風に吹かれたら散ってしまいそうな、そんな存在感だった」
「……」
「その子が、夜の繁華街でひとりポツンと座ってるのを見てな。俺が『ほんとに桜の花みたいだな』って言ったら、蓮が『だろ?』って笑ったんだよ。あいつがあんな風に笑ったの、俺は初めて見た」
ケンの目が美桜に向けられる。まるで、その時の情景をそのまま思い出しているかのようだった。
「それから、俺ら仲間内では、その子のことを『桜ちゃん』って呼ぶようになったんだ」
「桜の花みたいだから?」
「そうそう。単純なネーミングだけどな、実は俺が命名者ってやつ」
ケンがどこか誇らしげに微笑む。
「その桜ちゃん、夜になるといつも繁華街に現れるんだ。俺が『ナンパ待ちか?』って蓮に聞いたら、『違う』って言うんだよ。『じゃあ何してるんだ?』って訊いても、『分かんねぇ』って。男たちが声を掛けても、まるで存在を無視するように完全スルーしててさ」
(……なんだろう、この話……どこかで聞いたことがあるような……)
美桜は記憶を手繰る。
(……そうだ。昨日、蓮さんが話していた内容と同じ……)
「……ケンさん……」
「ん?」
優しい眼差しを向けてくるケンに、美桜はそっと問いかける。
「……その〝桜ちゃん〟って、もしかして……」
「そう、美桜ちんのことだよ」
ケンはいたずらっぽく笑いながら、指先で彼女を指す。
(……やっぱり……)
予想が的中していたことに、美桜は小さく息を呑んだ。
「夜の繁華街って、いろんな意味で危ない場所だろ? その時は平気でも、何かあるのは時間の問題だった。だから蓮は、美桜ちんを守るために〝命令〟を出したんだ」
「命令……?」
「そう。『繁華街にいる美桜ちんから目を離さない』と『巻き込まれそうになったら、すぐ蓮か俺に連絡する』──そう命令が出たんだ。女のことで蓮が〝命令〟出したの、初めてだったから、部下たちも気合入ってたよ」
(……ケンさん、楽しそうに話してるけど……って、私……)
「……私、見張られてたの?」
「うん。美桜ちんが繁華街に来てから帰るまで、五、六人はついてた」
(……嘘でしょ。冗談だよね)
「気づかなかった?」
ケンが美桜の顔を覗き込む。




