エピソード6-6
「……タバコは吸うのに、酒はダメなんだな?」
蓮が不思議そうに呟いた。
「ダメかは、分からない。飲んだことがないから……」
「タバコが吸えるんだし、酒もいけるって。試してみなよ」
どこに根拠があるのか分からないが、ケンは自信満々に言った。
美桜は思わず蓮へ視線を向ける。
「飲んでみるか?」
蓮の顔には、どこか楽しげな色が浮かんでいた。
(……この人たちは、私を悪の道に誘ってる……でも、今さら真面目ぶっても仕方ないよね)
そう心の中で呟いた美桜は、意を決してグラスを口に運ぶ。
「どうだ?」
「どう?」
初めて口にしたビールの感想を待つふたりが、興味津々で覗き込んでくる。
「……苦い……」
その一言に、ふたりはまた大笑いした。
蓮はすぐにウーロン茶を注文し、ビールの隣に並べて「好きな方を飲め」と促す。
次々に運ばれてくる大量の肉。その量は、テーブルの上にすら収まりきらないほどだった。
呆然とする美桜をよそに、蓮とケンは次々と網に肉を並べていく。
その合間、蓮がふたつの小皿を美桜の前に置いた。
それは〝レバ刺し〟と〝ユッケ〟。
初めて見る料理に、美桜は視覚だけで「無理」と判断し、「いらない」と伝えると、蓮に「好き嫌いするな」とたしなめられる。
おそるおそる〝レバ刺し〟を一切れ口に運んだ瞬間、ケンが素早くグラスを差し出した。
「美桜ちん、これで流し込め!」
美桜は慌ててそれを受け取り、一気に喉へ流し込む。
「……‼」
ウーロン茶だと思い込んでいたその中身は、まさかのビールだった。
「ちゃんと噛んで食え。喉に詰まったらどうする」
蓮の低い声に、美桜は肩をすくめる。
一方で、ケンは声を押し殺して笑っていた。それに気づいた美桜が横目で睨むと、ケンは両手を合わせて謝罪のポーズを取る。
(仕方ない……許してあげる)
〝レバ刺し〟はやはり苦手だったが、〝ユッケ〟のほうは美桜の口に合った。自分の分をあっという間に平らげると、隣の蓮の皿にまで箸を伸ばす。
「旨かったか?」
会話の合間に蓮が気づいて問いかける。
「うん」
その返事に、蓮は自分の〝ユッケ〟と美桜の〝レバ刺し〟の皿を無言で入れ替えてくれた。
肉が焼ける香ばしい匂いが漂う中、蓮は焼き上がった肉を次々に美桜の皿へと載せていく。
気づけば、皿の上は山のようだった。
「蓮さん、こんなに食べられないよ」
おそるおそる訴えかけると――。
「そのくらい食え。大きくなれねぇぞ」
あっさりと却下された。
「蓮って、そういうキャラだったっけ?」
二人のやり取りを見ていたケンが、不思議そうに呟く。
「あ?」
「えっ?」
同時に反応した蓮と美桜が、ケンに視線を向ける。
「いや……俺は蓮と長い付き合いだけど、女の皿に肉を取ってやったり、こんなふうに甲斐甲斐しく世話してるのを見るのは初めてでさ」
「……うっせぇよ」
「それにさ、お前が女と肩を並べて歩くのも、今まで見たことなかったし」
「……」
蓮はなにも言わない。美桜もまた、居心地の悪い沈黙に言葉を失う。
(……なんか、喉が渇く)
美桜は目の前のグラスを手に取り、口元へ運んだ――その瞬間。




