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深愛~見つけられた日から、もう逃げられない~  作者: 白川桜蓮


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エピソード6-5

◇◇◇◇◇

 繁華街のメインストリートを外れた小路に佇む一軒の焼肉屋。重厚な木の扉と格子の意匠が、そこが高級店であることを静かに物語っている。

 そんな敷居の高さを物ともせずに足を踏み入れる蓮とケン。その姿から、ここが常連の場所であることは一目でわかった。

 店内に入ると、案内も待たずに二人は奥へと進み、迷いなく最奥の個室へと向かう。

 襖の向こうは広々とした和室。三人には持て余すほどの空間に、蓮は自然な所作で美桜を奥に座らせ、自身もその隣に腰を下ろした。向かいには、すでにケンが座っている。

『いらっしゃいませ』

 タイミングを計ったように店員が現れ、おしぼりとメニューを差し出す。

「いつものを三人分で」

 ケンはメニューに目もくれず、慣れた調子で注文した。

『はい、かしこまりました』

 短い返事を残し、店員は静かに部屋を後にする。

(……ケンさんも常連なんだ)

 そう思いながら、美桜は隣に座る蓮に小さく尋ねた。

「蓮さんも、焼肉が好きなの?」

 ちょうどタバコに火をつけかけていた蓮が、ちらりと美桜に目を向ける。

「ん?」

「……このお店、慣れてるみたいだったから」

「ああ。まあな。けど、こいつほどじゃない」

 蓮は顎でケンを指す。

 その視線を追って、美桜がケンを見ると、彼は笑顔のまま灰皿を差し出しながら答えた。

「俺、週に三回は焼肉の日!」

 あまりにも満面の笑顔に、美桜は驚き、受け取った灰皿を落としそうになった。

「週三⁉」

「食いすぎだよな」

 蓮が呆れたように、肩をすくめて笑った。

「俺、この世で焼肉がいちばん好きなんだ。一日三食焼肉でもいいし、できれば毎日食べたい。死ぬ瞬間だって、焼肉を頬張りながら逝きたいくらいだ!」

「……」

 その真剣な目と力説する口調に、美桜は言葉を失った。さっきの怒号とは別の意味で、彼の情熱は恐ろしい。

 タバコを手にしたまま、火を点けることさえ忘れてしまう。美桜は隣にいる蓮の腕を、ついぎゅっと掴んでいた。

「そんなことばかり言ってると、葵に殴られるぞ」

 蓮がぽつりと漏らした瞬間、ケンの動きがピタリと止まる。

「ああ、そうだな……今の話、葵にも伝えてやるか」

 にやりと笑う蓮の一言に、ケンは青ざめ、目を泳がせながら必死に弁解を始めた。

「ち、違うんだって! 世界でいちばん好きなのは葵! で、焼肉はその次っ! ……ははは……」

 強引な言い訳に、美桜は思わず同情する。

(……ケンさんの弱点は〝葵さん〟なんだ)

「だよな? 間違うなよ」

 蓮は満足げに頷き、まるで遊んでいるかのような口調でからかう。

 クーラーが効きすぎて寒いくらいの室内で、ケンの額には薄く汗がにじんでいた。

 そんな微妙な空気を変えたのは、絶妙なタイミングで現れた店員だった。

『お待たせしました』

 運ばれてきた三杯の生ビールが、それぞれの目の前に静かに置かれる。

「じゃ、ひとまずおつかれ~」

 ケンがグラスを掲げて乾杯の合図を送り、豪快にビールを流し込む。蓮もそれにならい、一気に飲み干していた。

 ただひとり、美桜だけが手をつけず、じっとその黄金色の液体を見つめていた。

「旨っ!」

 口元をぬぐいながら、ケンが満足げに笑う。

「どうした、美桜?」

 ようやく蓮が彼女の異変に気づく。

「美桜ちん、飲まないの?」

 ケンも興味津々で覗き込んできた。

「……飲んだこと、ないから……」

 美桜の呟きに、ふたりの表情が一瞬で固まる。そして同時に、なにかに気づいたように顔を見合わせた。

「そういえば、お前はまだ中学生だったな」

「美桜ちん、まだ未成年だった……」

 蓮とケンの声がかぶり、そのまま笑い出す。

「ごめん、ごめん。すっかり忘れてた!」

 ケンが申し訳なさそうに手を合わせて謝る。


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