エピソード5-8
「俺がお前のことを知るのは、当然のことだ。なにも恥ずかしがることじゃねぇ。分かるな?」
諭すように、しかし力強く言葉を紡ぐ蓮。その響きが、美桜の胸に染み込む。
(……確かに、そうなのかも……)
不思議と胸の奥にあった動揺が、ふっと和らいでいく。まるで蓮の言葉が、絶対的な真理にさえ思えた。
「……分かるの?」
「あぁ、そのうちな」
「なんで?」
「俺は、触ればサイズが分かる」
(……やっぱり……私は、あなたのことを勘違いしていたみたいです……。たまに怖いけど、優しくて良い人だと思っていたのに……実は、ただのエロい変質者だったんですね⁉)
美桜の心の中で、蓮への尊敬が音もなく霧散する。
「……エロ変質者……」
無意識に漏れた言葉に、蓮の眉がわずかに動く。
「あぁ?」
その低く鋭い声に、美桜の心臓が跳ね上がった。
(し、しまった……! 蓮さんの声がいつもより低くて、怖いんですけど⁉ ……まさか〝ヤクザスイッチ〟押しちゃった⁉)
おそるおそる顔を上げた美桜の目に飛び込んできたのは、蓮の整った顔――ではなく、深く寄った眉間の皺と鋭い眼光だった。
(ひぃぃっ! 怖い! すごく怖い‼)
「今、なんて言った?」
「……」
「俺が聞いてんだ、答えろ」
「……」
「今すぐ家に帰って、ゆっくり話すか?」
「……エロ……」
「あ?」
「……エロ変質者って言いました。ごめんなさい……」
「それは誰のことだ?」
「……さっき店の前を通ったオッサン……」
「……」
「すみません、ウソです。……蓮さんのことです」
深い溜め息を吐いた蓮の表情が、すこしだけ和らぐ。
「自分の女の胸を触って、なにが悪ぃんだ? ……今すぐ無理矢理なんてするつもりはねぇよ。お前がいいって思うまで、ちゃんと待つに決まってんだろ」
(そ、そうだよね……! 蓮さんが無理矢理なんてするはずない……! 私、なにをひとりで勘違いしていたんだろう……)
「……ごめんなさい……」
「別に謝らなくていい」
「……でも……」
「俺は、お前に嫌われるようなことはしたくない。だから、嫌なことは、ちゃんと口に出せ。分かったか?」
「……はい」
(ほんのすこしだけど……蓮さんが私のことを、どんなふうに想ってくれているのか、分かった気がする)
美桜の心がふんわりと温かくなり、蓮に引き寄せられるようにそっと身体を寄せた。その広い胸に顔を埋め、背中にそっと手を回す。
(なぜそうしたのか、自分でもよく分からなかった。ただ、無性に――蓮さんに触れていたくなっただけ)
その気持ちに、蓮は黙って応えてくれた。彼の温もりに包まれると、心の重さが少しだけ和らいだ気がした。




