エピソード5-7
『少々お待ちくださいませ』
そう言ってスタッフのお姉さんがその場を離れる。
(……もしかして、油断させておいて警察を呼ぶつもりなんじゃ……⁉)
内心ヒヤヒヤしていた美桜だったが、数秒後に戻ってきた彼女が商品を手にしているのを見て、ようやく安堵の息をついた。
「良かったね、蓮さん……」
「なにが?」
「通報されなくて……」
「通報? なんで通報されるんだ?」
「……変質者扱いで」
「あ? 誰が変質者だって?」
「そ、それは……蓮さんに決まってるじゃん!」
口に出した瞬間、しまったと思った。
鋭い眼差しが、美桜を容赦なく射抜く。
(やばい……完全に蛇に睨まれたカエル状態になってしまった)
『お客様、こちらへどうぞ』
絶妙なタイミングでスタッフのお姉さんが声をかけてくれる。
美桜は救いの女神に導かれるように立ち上がり、蓮の元を離れた。
「俺が変質者になった経緯を、あとでゆっくり聞かせてもらうからな」
耳元で低く囁かれ、美桜は思わず身を竦ませる。
(ひいっ……本気で怖いんですけど……)
スタッフの元へと逃げるように駆け寄った。
「こちらで上衣をすべて脱いでから、これをお召しください。その後、声をかけていただければご案内します」
そう言って手渡されたのは、ふかふかのバスローブのような衣類だった。
(……なんでこんなものを?)
首を傾げつつも、美桜は指示に従い、試着室に入る。
バスローブを身に着けて声をかけると、満面の笑顔を浮かべたスタッフのお姉さんが中に入ってきた。
「ご一緒に来られている方って、彼氏さんですか?」
「え? ……あっ……まぁ、はい……」
「いいですね~。カッコいいし、優しそうで」
「……はぁ……」
「最近、多いんですよ。カップルでご来店なさるお客様」
「えっ? そうなんですか?」
「えぇ」
(……そうなんだ……蓮さんだけじゃないんだ……)
「それでは、失礼いたしますね」
そう言って、お姉さんは美桜のバスローブの結び目を手早く解き、勢いよく前を開いた。
「きゃあっ‼」
美桜の小さな悲鳴が試着室に響く。
「着替えを済ませたら、お声かけくださいね」
お姉さんはにっこりと微笑んで退出する。その直後、試着室の外から蓮の声が聞こえてきた。言葉までは聞き取れなかったが、続いて聞こえたお姉さんの返答で、美桜は二人の会話の内容を悟る。
『Cの……ですね』
(ちょっと待って! なんで蓮さんに私のバストサイズを報告してるの⁉)
「そうか。あいつに似合いそうなのを選んでくれ」
(……蓮さんも、どうしてそんなに冷静なの⁉ 私が変なの? それとも……これが普通?)
すべてが終わり、蓮の隣に座った美桜は、まるで気が抜けたように呟く。
「……今日初めて会ったお姉さんに、胸を見られて触られた……」
「サイズを測るためだろ?」
「……で、そのサイズを蓮さんに報告された……」
「あぁ。お前、見た目より胸あるもんな」
「……」
「嫌だったのか?」
「……うん……」
「どっちが?」
「……両方……」
蓮は静かに美桜の肩を抱き、自分のほうへ引き寄せる。
「そんなに嫌なら、次からは俺が測ってやるよ。それに、サイズなんて聞かなくても――そのうち分かる」
「……はっ?」
(サイズはそのうち分かる? ……えっと、それって、まさか⁉)
蓮の言葉の意味を理解した瞬間、美桜の顔は一気に熱を帯びた。
(ダメだ……もう蓮さんの顔が見られない……)
美桜がアタフタしている様子は、当然のように蓮にも見抜かれていた。




