エピソード5-4
◇◇◇◇◇
蓮に連れられて入ったファミレスのテーブル席に、美桜は静かに腰を下ろした。
「何を食う?」と尋ねられ、空腹を感じなかった美桜は控えめに「サラダとスープ」と答える。
そして、席を立ち、洗面スペースへと向かった。
戻ってきたとき、美桜の前には、チーズハンバーグにライス、サラダとスープまで整然と並んでいた。
「……蓮さん、これって……間違いじゃない?」
(きっと店員さんがオーダーを間違えたんだ。そうに違いない!)
不安げに問いかける美桜に、蓮はあっさりと応じた。
「あ? 間違いじゃねぇよ。俺が頼んだんだ」
「……え? 蓮さんが?」
「あぁ」
「全部?」
「そうだ」
「……なんで?」
「そのくらい食え。サラダとスープだけじゃ足りねぇだろ」
(いやいや、私はお腹空いてないって、何度も言ったよね⁉)
蓮はにこりと微笑んだが、その笑顔の奥には無言の圧が潜んでいた。
「残すなよ」
目が笑っていないその一言に、美桜の背筋が凍る。
(これ……残したら、殺されるかもしれない……)
「……私、蓮さんと一緒にいたら、太ると思う」
「いいんだよ。もうちょっと太れ」
(……いや、絶対にいや。太りたくなんてない……でも、残したら……ほんとにヤバいかもしれない……)
半ば涙目になりながらも、美桜はなんとかハンバーグを切り分け、そっと口へと運ぶ。
香ばしい風味とジューシーな旨みが、口いっぱいにじんわりと広がった。
(……美味しいけど……やっぱり無理……)
限界と葛藤を抱えながら、美桜は黙々とハンバーグを平らげる戦いを続けていた。途中で軽く気分が悪くなったものの、なんとか完食。最後の一口を飲み込む頃には、もう味すらも感じられなかった。
(どうしてご飯を食べるだけで、こんなに必死にならなきゃいけないの? ……これは全部、蓮さんのせいだよね……なんかムカつく。もう少しくらい嫌味を言ってもバチは当たらないよね?)
そんなことを考えながら顔を上げると、蓮が頬杖をつきながら美桜を見ていた。
穏やかで優しい、その微笑みにはどこか楽しげな色が滲んでいる。
「うまいか?」
蓮が穏やかに問いかける。
「……うん」
短く答えると、
「そうか」
と返す、その何気ない言葉と笑顔に、美桜は反発心が萎んでいくのを感じた。
(ずるいよ……そんな顔されたら、なにも言えなくなるじゃん。でも……まぁ、いいか)
頬にわずかに熱を感じながらも、美桜はなんとか完食を果たした。




