エピソード4-8
美桜はそっと手を伸ばし、蓮の背中に触れた。
指先で龍の曲線をなぞると、蓮の身体がわずかに反応する。
「くすぐったい」
蓮は笑いながら、優しく振り返った。
「この龍の眼……蓮さんの眼に似てる気がする」
美桜の指が、刺青の中の龍の眼にそっと触れる。
その鋭さと、圧倒的な威厳――時折見せる蓮の瞳と、どこか重なって見えた。
「そうか?」
「うん、そっくり」
蓮は楽しげに微笑んだ。その笑顔は、刺青の持つ重みさえ忘れさせるほど、穏やかだった。
「ねぇ、蓮さん」
「なんだ?」
美桜は背中に触れたまま、問いかける。
「蓮さんは……蓮さんだよね?」
「あぁ、俺は俺だ」
「ずっと……私の傍にいてくれる?」
「いつも、お前の傍にいる」
「どんなときでも?」
「どんなときでも、だ」
「絶対?」
「あぁ、絶対だ」
その言葉に、美桜はそっと蓮の背に唇を寄せた。
「それなら……私は大丈夫」
「……大丈夫?」
背中越しの声には、わずかに困惑が滲んでいた。
美桜は唇を離し、静かに言葉を紡ぐ。
「蓮さんが蓮さんでいてくれるなら、それ以外のことなんて、どうでもいいの」
蓮が振り返り、驚いたように美桜を見つめる。微笑む美桜の瞳と、蓮の目がふと重なった。
その瞳が、次第にいつもの強さを取り戻していく――漆黒に澄んだ、力強く、それでいて優しい眼差し。美桜は、その目が好きだった。
蓮は腕を伸ばし、美桜の身体を包み込む。
香水とタバコが微かに混じり合った、どこか大人びた香り。蓮の温もりが、美桜の中に安心を流し込む。
静かな時間が、ふたりをやさしく包み込む。
「ねぇ、蓮さん」
「なんだ?」
美桜は頬を蓮の素肌に寄せながら、囁くように呟いた。
「さっき言ったこと、忘れないでね」
「さっき?」
「うん。『タバコぐらい、いくらでも吸え』って」
「あ?」
蓮は呆れたように眉をひそめた。
「だから、私がタバコを吸っても怒らないでね」
「お前……それは、そういう意味じゃねぇだろ」
「でも、言ったじゃん」
美桜は蓮を下から覗き込む。しばらく見つめ合ったあと、蓮は大きく息を吐いた。
「……あんまり吸いすぎるなよ」
「よし、勝った!」
美桜は満面の笑顔で頷いた。その瞳はまるで子どものように輝いていた。




