エピソード4-1
目を開けた美桜は、見慣れない部屋にいた。
白い天井と壁に囲まれた広々とした空間。大きな窓からは煌びやかな夜景が見える。
リビングには大型の液晶テレビや観葉植物、間接照明が落ち着いた光を放っていた。
美桜が座っているのは、黒い革張りのソファ。ガラスのテーブルを挟んだ向こうにも同じソファが配置され、全体的にシンプルで洗練された雰囲気だ。
ここは――蓮の家だった。
美桜は、さっきまで蓮の胸にしがみついて泣いていた。
蓮はそのすべてを受け止め、「大丈夫だ」「お前はひとりじゃない」と耳元で優しく囁き続けてくれた。
その静かで力強い声に導かれるように涙が引いた後、蓮は美桜の顔をそっと覗き込み、手で涙を拭い、唇を寄せた。
それからなにも言わずに車を走らせ、この部屋へ連れてきたのだった。
高層マンションの最上階――それが蓮の家だった。
玄関で躊躇する美桜に蓮は静かに告げた。
「施設に帰るか、この部屋に入るか、選べ」
結局、美桜は部屋に入ることを選んだ。途中で逃げ出そうかとも考えたが、蓮に軽く脅され、観念したのだ。
リビングに入ると、蓮は自分のTシャツやハーフパンツ、タオルを差し出してきた。
「風呂に入ってこい」
疲れ切っていた美桜は素直に従い、浴室へ向かった。
バスルームは広々としていて、バスタブも贅沢なほど大きい。窓が大きく開放的だが、高層階ゆえに外から見えないことに気づき、美桜はすこし安心した。
脱衣場には、蓮が用意してくれたらしい下着がコンビニ袋に入って置かれていた。
それを見て、美桜はつい想像してしまった――蓮が、人目を気にしながらコンビニでレディース下着を選んでいる姿を。
「ぷっ……」
思わず笑みがこぼれる。
リビングに戻ると、蓮は窓際で誰かと電話をしていた。
その低く冷ややかな声は、車の中で見せた優しさとはまるで別人のようだった。
電話を終えた蓮は、美桜に「座っていろ」とだけ言い、冷えたペットボトルのお茶を手渡してくる。
「俺も、ひとっ風呂浴びてくる」
そう言い残し、リビングをあとにした。
美桜はソファに座ったまま、冷たいペットボトルを腫れた瞼にそっと押し当てた。
湯船に浸かったことで少しは腫れも引いたが、まだじんわりと熱が残っている。
遠くでドアが閉まる音がして、やがて蓮の足音がゆっくりとリビングへ戻ってくる。
「目が、痛むのか?」
すぐ近くから声がした。
「……うん、ちょっと」
美桜はペットボトルを瞼に当てたまま、静かに答えた。
蓮が引き出しを開け、何かを探す音がする。
その後、ソファに隣り合って腰を下ろす振動が、美桜の体に伝わってきた。
「目、開けてみ」
蓮の低く穏やかな声が、静かに響いた。
美桜はゆっくりとペットボトルを外し、まばたきを繰り返しながら瞳を開ける。
ぼやけた視界が少しずつ輪郭を取り戻し、色彩が戻っていく。
「真っ赤じゃねぇか……」
蓮が眉間に皺を寄せ、小さく舌打ちした。その手に何かを握っていることに、美桜は気づいた。
「……それ、なに?」
「ん?」
美桜が蓮の手を指差す。




