エピソード2-6
◇◇◇◇◇
蓮が会計を済ませている間、美桜は一足先に外へ出た。
夏特有の強い日差しが容赦なく肌を焼きつけ、目を細めながら空を見上げる。――久しぶりに陽の光を浴びた気がした。
「ありがとうございました!」
店内から店員の明るい声が響き、振り返ると蓮が後ろポケットに財布をしまいながら出てきた。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
美桜が丁寧に頭を下げると、蓮は優しく笑う。
「おう」
蓮は車からタオルを取り出し、海へと続く階段の前で足を止めた。
「……忘れた」
「えっ? なにを忘れたの?」
蓮は右手に持った袋を軽く揺らしながら、左手をすっと差し出す。
その手を見た美桜は、小さく笑みを漏らしながら自分の右手を重ねた。
「ここには、ナンパ男やキャッチ男はいないと思うよ?」
「細かいことは気にすんな」
蓮はそう言いながら、美桜の手をしっかり握り、引き寄せるように歩き出す。
長い階段を下ると、視界がぱっと開けた。
目の前には広がる青い海。砂浜には、海を楽しむ人々の笑い声が響いていた。
蓮は砂浜の端に腰を下ろし、スニーカーを脱ぎ始める。それを見た美桜も隣に座り、そっとサンダルを脱いだ。
素足を、砂浜へそっと降ろす。
生まれて初めて感じる、砂の感触。
陽に焼かれた粒子がじんわりと足裏に染みこみ、どこか不思議なぬくもりだった。
(……なんか、変な感じ……)
おそるおそる、砂を踏みしめる。
その柔らかな感触に、美桜の足がぴたりと止まった。
「どうした?」
蓮の声が、背後から優しく包み込むように響く。
けれど美桜は答えず、ただ足元を見つめたままだ。
「美桜?」
蓮が不思議そうに、そっと彼女の顔を覗き込む。
「……蓮さん」
「うん?」
「砂って……くすぐったいね」
顔を上げると、蓮の表情がゆるんだ。
先ほどまでの心配そうな眼差しが、ふわりと穏やかな笑みに変わる。
ふたりは手を繋いだまま、波打ち際へと歩いていった。
寄せては返す波が、規則的なリズムで砂を洗い、透明な水面がきらきらと輝いている。
美桜は蓮の腕にしがみつきながら、おそるおそる海水に足を浸した。
ひんやりとした心地よい感触が、足元から体へと広がっていく。
「どうだ? 冷たくないか?」
「うん、気持ちいい」
美桜は自然と笑顔になった。




