22話 消えてく誓い
(何も..で..き..)
そう微かに言葉を漏らすと、目の前にいる者の活動は止まった。
大樹を目指す侵入者を屠り、アーディは与えられていた使命...〝大樹の番人〟を続けるべく、どういう原理か知らないが、何故か動いていた首の無い骸の身体から、深々と刺していた自らの剣を引き抜き、離れようとしていたその時。
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《瘴気吸収、変換を実行。対象【オビト ロクロウ】を蘇生します》
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「...?〉
首の無い骸へ、地面に広がるマナが集まっていく。
(…………………アッツァ゙ッ!!!!)
「!?〉
アーディは素早く骸から距離を取る。
突如として、首の無い骸の全身が勢いよく蒼い炎で燃え盛り、それを熱がる素振りを見せながら、また独りでに動き始めたからだ。
(あっつ...何だ?今の………あれ?俺..生きてる?)
アーディはこの時、目の前の首の無い骸をただの敵としてではなく、必ず討伐しなければならない強敵として強く認識するようになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
意識を失ったのも束の間、身体を襲う激しい熱気で飛び起きたのだが、突然と自らに起きた事態を把握できずにいた。
(あれ?俺...完全に意識無くなって...そしたらすぐにさっきの〝アレ〟で...)
身体は動かず、意識も薄れ、二度目の死を自覚し、抗えずに受け入れるしか無かった筈だったのだが...
(全部...治ってる...?)
未だジワジワとした熱を感じる身体を確認すると、衣服に穴が空いているくらいで、胸部の中心辺りにできていたはずの傷は跡形も無くなっていた。
(何が起きて………そうだ、ミルシャは..!!)
自身に何が起こったのか気にはなるが、そんなことよりもまずはミルシャの安否が先だ。
記憶している限りでは、かなり危険な状態だったと思う。
(どこに......いた!!)
辺りを見回すと、すぐにミルシャを発見できた。
崩れた外壁の瓦礫と共に、周りの地面を鮮血の赤に染めながら、静かに倒れ伏していた。
(―ッ!!まずい、まずい..!!)
ふつふつと脳裏に湧き上がっている嫌な思考に蓋をしながら、急いでミルシャへ駆け寄っていく。
幸い身体はどこも不自由無く動き、すぐにミルシャの下へたどり着いた。
(―ぅ...ミルシャっ!!しっかりしろ!!)
血を多く失い、生気が薄くなった肌。
生々しく残る腹部の刺し傷。
伏し目がちな表情。
鈍く光る金色の瞳。
どんなに声をかけても反応は無く、ミルシャはただそこに居るだけだった。
(嘘だ...嘘だ...!!駄目..だ...そんな事、あって良いはずが無いッ!!)
蓋をしていた嫌な思考は一気に噴き出し、抑えようのない喪失が精神を削っていく。
(あぁ...そんな...俺..約束..)
不甲斐ない自分に激しく失望する。
やり場のない憤りが、救えなかったという自責の念が心を激しく引っ掻く。
(俺は...何も..できなかった..)
何も成せず、何もできず、ただ失う。
自尊心は砕け散り、理由の無い自信は消え失せた。
(...ごめんなさい...ごめんなさい...)
少女を抱き、聞こえるはずのない謝罪を繰り返す。
(...ごめんなさい...ごめんなさい...俺なんかが救うなんて言ってごめんなさい)
(...ごめんなさい...ごめんなさい...できもしない約束をしてごめんなさい)
(ごめんなさい...俺だけが生きて...ごめんなさい)
そうしていつまでも繰り返す自己満足は突然終わりを告げた。
―ドスッ―
(あ...)
いつの間にか背後にいたアーディに心臓を貫かれていた。
「…………〉
(ぐぁぁッ!!)
身体の内側を風魔法によってできた真空の刃で引き裂かれ、ミルシャに覆い被さるように倒れ込んだ。
(...また...終わる...)
段々と動きが鈍くなっていく身体を感じ、ただそう思う。
(ごめ..な..さ...)
そうして意識はまた途切れた。
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