第16話:見殺しへのカウントダウン
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叩務は怒りに震えていた。
戦争を紛失した期間が長過ぎて衰退し過ぎた日本の堕落に。そんな日本から戦争を奪う行為に対してなんの罪悪感を懐かない強田の悪辣さに。そして、そんな悪辣を阻止出来ない自分の不甲斐無さに。
(あいつは何も解っていない……世間知らずで自己中心的な老害の邪悪な誘惑にまんまと騙され、ただ悪戯に『戦争反対』をオウム返しの様に繰り返すだけ……それがどれ程危険を、あの女はまるで解っていない!)
戦争が生み出す利益と成長を頑なに信じ、戦争が生み出す利益と成長を日本も存分に味わって欲しいと心底願うからこそ、戦争を殺戮の道具と見下す強田の心理が信じられず、強田の頭の悪さに頭を抱えているのだ。
ただ、叩は強田について1つ勘違いしている。
そう。叩は強田の見た目に完全に騙され、強田を無知な女と見下しているのだ。
そこへ、高位の軍人と思われる者達に声をかけられた。
「魔法少女管理委員会日本支部が送り込んだ魔法少女を全員取り逃がした事が、余程悔しいと見える?」
それに対して、叩はきちんと敬礼しながら答える。
「今回の魔法少女は危険です!特に強田と言う魔法少女は特に危険です。あの女は、貴方方が築き上げ、この国にもたらした秩序と発展を平気で踏みにじります!急がないと取り返しのつかない事になります!」
それを聞いた軍高官は、冗談交じりに、
「ツトム・タタク、君は強田と言う魔法少女が余程お嫌いの様だな?」
が、叩はその冗談を真っ向から否定した。
「いいえ!嫌いではなく危険なのです!実際、あの女は我々が親切に間違いを正してやろうとしているのに、それを真っ向から否定し、あえて我々が行くなと言った間違いの方に迷う事無く突っ込んで逝き、周囲の者達まで巻き込み犠牲にするのです!そのせいで……我が祖国日本はぁ……」
軍高官が興奮し過ぎた叩を宥める。
「解った。解ったから、少しは頭を冷やせ」
指摘を受けて反省する叩。
「は!失礼しました!」
そして、軍高官は狡賢そうな邪な笑みを浮かべた。
「そもそも、既にこの国に違法入国しておるのであろう?」
「はい!非常に危険過ぎる存在が!」
「なら大丈夫だ」
叩は言ってる意味が解らなかった。
「は?」
それに対し、軍高官は大笑いしながら答えた。
「そうかそうか。君は日本での任務が長かったから、この国の魔法少女管理委員会施設が今どうなっているのかを知らないのだな?」
だが、叩はまだ理解出来ない。
「は?仰る意味が解りかねますが?」
「まあつまり、例の魔法少女達の事は、そんなに急がなくても大丈夫って事だ」
叩はまだまだツッコミ足りないが、これ以上反論して秩序と規律を乱すのは無礼に当たると判断し、軍高官が言う「大丈夫」を信じる事にした。
が、軍高官が直ぐに溜息を吐いたので、叩が再び不安になった。
「それよりも、あの隕石の頑固さじゃ」
「魔法少女と言う忌々しい存在を生み出し続ける元凶が如何なさいました?」
どう言う訳か兵器が隕石を極度に拒絶すると言うお話は大分前にしたと思うが、兵器推進善業は多くの国が諦めてしまった魔法少女を生み出す隕石と兵器の融合。更に言えば、魔法少女を生み出す隕石の兵器化を未だに諦めていなかったのだ。
だが、軍高官のこの様子だと、未だに隕石の兵器化成功の兆しがまったく見えない様である。
その体たらくを聴かされた叩は、兵器推進善業に協力的とは程遠い隕石の態度に怒った。
「何たる不合理!隕石もまた、所詮はただの石に過ぎないと言う事か!?ただの石の中に脳みそが無いのは当然の事と言う訳か!?」
しかも、兵器推進善業の隕石に関する悩みはそれだけではない。
最近、兵器推進善業が所有する隕石が謎の発光を行う様になったのだ。
「意味が解らぬ!むやみやたらに魔法少女と言う害虫を生み出したり、勝手に発光したりせず、対巨大怪獣用兵器に生まれ変わった方が効率的で合理的だと、何故解らんのだ!?」
叩は怒りのあまり、軍高官は叩を宥める事に夢中で気付いていなかったが、叩が隕石が兵器に生まれ変わる事を望む様な発言をした途端、隕石の発光が少しだけ強くなった。
一方……エレクトロンが魔法少女管理委員会中東支部の不甲斐無さに困惑し呆れ果てた。
「何……これ?……キャンプ場……」
そこにあったのは、瞬時に折り畳めるテントが複数配置されているだけの質素な事務所であった。
「まるで遊牧民ですね?」
夏芽の感想に対する反論が一切出来ない神楽。
「返す言葉が無いな。建物も機材も人材も最重要と言える例の隕石も……全部この国に没収されてしまったよ」
泣きたくなってきたエレクトロン。
「無い無い尽くしの貧乏生活に逆戻りかよ!?よくそんなんで巨大怪獣からこの国を護れたなぁ!?」
エレクトロンの皮肉付きの苦情に対して言える事が少ない神楽。
「確かに、中東支部が巨大怪獣を討ち斃した事は1度も無い」
それを聴いて不安になる夏芽。
「それじゃあ!?」
だが、この国は意外と大丈夫であった。
その理由は2つある。
1つ目は、この国を襲う巨大怪獣が凄まじくかつ物凄く賢くなった事。
巨大怪獣は本来、兵器推進善業が使用する様な通常兵器で攻撃される度に急成長・急強化する。つまり、兵器推進善業が通常兵器に頼り切ってる内は、巨大怪獣が兵器推進善業に殺される心配が全く無いのである。寧ろ、兵器推進善業のおかげで巨大怪獣はどんどん強く成れるのだ。
だが、だからと言って巨大怪獣が兵器推進善業を優遇する国に長く留まり過ぎると、兵器推進善業より巨大怪獣の方が圧倒的に強い事がバレてしまい、兵器推進善業の居場所が更に減ってしまう。そうなれば、通常兵器を一切使用せず、巨大怪獣の天敵である超能力のみで戦う魔法少女が戦いの主流になってしまい、巨大怪獣やダメージヘアー星人が更に不利になってしまう。
そこで、巨大怪獣は兵器推進善業の通常兵器による攻撃を数回だけ受け、頃合いを計って逃走するふりをするのだ。そうする事で兵器推進善業を有頂天に陥れ、兵器推進善業の居場所を奪い過ぎる事態を未然に防ぎ、かなり時間を無駄にするも効率良く通常兵器を浴びて急成長・急強化出来るのである。
「敵の方が1枚も2枚も上手じゃん」
Risquemaximumもその事は承知しており、だからこそ定期的にこの国に上陸して兵器推進善業より巨大怪獣の方が圧倒的に強い事を証明し続けた。が、この事がRisquemaximumが母島列島決戦に遅参しかけた原因でもあった。
もう1つは、祭高明の存在。
この国では、兵器推進善業や軍事政権の方が幅を利かせており、国際規則を厳守する管理委員会は為す術無く隅に追いやられている。
それは、祭高明傘下の魔法少女にとって、他の魔法少女に邪魔されない格好の狩場。
勿論、巨大怪獣対策において魔法少女の超能力より通常兵器の方が断然有効である事実を証明したい兵器推進善業が黙っている訳が無いのだが、彼女達は管理委員会の言いつけすら守らない犯罪者。兵器推進善業の逮捕を目的とした動きなどどこ吹く風。また、首領格の祭高明も兵器推進善業の事を「時代遅れの負け犬」としか思っておらず、逮捕を前提とした注意喚起もどこ吹く風。
そして今日も、他の魔法少女に邪魔される事無く巨大怪獣をハントするのだ。
「もぉーう。得するのは私達の敵ばかりじゃーん」
泣き言ばかり言うエレクトロンに対し、強田は考え込む素振りを見せた。
「ん?どうした?そんなに考え込んで」
神楽に言われて口を開く強田。
「夏芽」
「え?あ、はい」
「ちょっと手伝ってくれ。初仕事をしましょう」
「……何を始める気だ?」
無数の触手を生やした肉団子の様な巨大怪獣を発見した強田は、早速白鳥の様な翼を生やして発見した巨大怪獣の時間を止めた。
「さてと……こいつの最初の姿を拝ませてもらいますか」
強田を襲いたいが動けない巨大怪獣を尻目に、強田がその巨大怪獣の時間を一気に巻き戻した。
「兵器馬鹿集団に付けられた傷を治療してやってんだ。ありがたく思いな」
兵器推進善業から受けたダメージを全て没収されて急激に弱体化した肉団子の様な巨大怪獣は、みるみる縮んでクモザルとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣へと姿を変えた。
だが、強田はあえて巨大怪獣にトドメを刺さず、巨大怪獣を自由にして逃がしてやった。無論、既に力の差を思い知らされた巨大怪獣が強田に闘いを挑む筈も無く、一目散に逃走した。
勿論理解に苦しむ神楽達。
「何やってるんだ!?せっかく兵器推進善業が行った戦闘行為によって強大化した巨大怪獣の弱体化に成功したと言うのに、なぜ逃がした!?」
それに対し、強田はあっけらかんと答えた。
「この国に巣喰う兵器馬鹿集団を倒す為さ。この国にとっては、そっちの方が急務だろ?」
つまり、強田の作戦はこうだ。
先ずは、兵器推進善業が行った戦闘行為によって強大化した巨大怪獣達を次々と弱体化させ、兵器推進善業が恋しい状態に陥れる。
弱体化した巨大怪獣は、弱体化した身体を鍛え直そうと兵器推進善業を襲う。
その隙に巨大怪獣の退路を断ち、巨大怪獣の敗走するふりを妨害。
そうする事で、巨大怪獣は兵器推進善業が所持する通常兵器を長々と浴び続けてしまい、兵器推進善業の戦闘行為が巨大怪獣を強大化させ続けてしまう「かませ犬」であると言う事実をこの国に思い知らせるのだ。
神楽は、この説明でようやく巨大怪獣の見逃しの理由を悟った。
「つまり、巨大怪獣と通常兵器の関係性を証明する動画が欲しいと言う訳か?」
それと同時に、夏芽が薄々気付いていたこの国の報道陣達の扱いを正しく理解した。
「そして……この国の報道規制は徹底されている」
国民が権力者の思惑通りに動く為の第1歩は、情報収集の難易度を上げる事だ。
権力者にとって不利な情報は隠すか消し去り、有利な情報だけを流す。その上、敵対者の痴態や悪癖を針小棒大に伝える事で国民の対抗心と使命感を煽る。更にダメ押しとして権力者が望む成果を得た者に多大で大袈裟な報酬を授ける。
そうやって国民的熱狂と同調圧力を造り出し、事実を捻じ曲げ続けて多大な報酬を与え続ける事で、情報収集に対する熱意を完全に冷やすのだ。
そうなってしまった国に暮らす国民は、他の国が知っている事実に気付く事無く与えられた情報に踊らされ続け、権力者の操り人形と化すのだ。
「太平洋戦争の時の日本と同じさ。なぁーんにも知らないしみぃーんなで渡れば怖くない状態だから、どうやって目の前の出来事を否定すれば良いのかがまるで解ってないのさ」
そして……強田は今にも泣きそうなぐらい悲し気な表情を浮かべた。
「嘘吐きな大人に騙され続ける子供ほど……哀れで気の毒な生物はいねぇさ……」
だが、夏芽が強田にとって都合が悪過ぎる事実に気付いてしまった。
「はっ!」
「ん?どうした曙?」
「この近くの隕石が……発光してる」
「……貸せ!」
嫌な予感がした強田は、夏芽の周囲に浮かんでいる複数の鏡を乱暴に掴んで注視した。
「本当だ……あの糞石が光ってやがる!光ってるのは1つだけか!?」
夏芽が慌てて首を横に振る。
「ううん!それだけじゃない!」
嫌な予感がした強田は、他の管理委員会支部に連絡して欲しいと神楽に懇願した。
「解った!解ったから!とにかく落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!俺の予想が正しければ……」
神楽から管理委員会が所有する施設にある隕石が発光したかと訊ねられ、理解に苦しむライラ。
「隕石には何の変化も無いが、それがどうかしたか?」
ライラの台詞を伝えた神楽であったが、それがかえって強田の不安を煽った。
「他はどうした!?他の糞石はどうしたって訊いてんだよ!」
強田のこの慌て様に驚き困惑する神楽。
「落ち着けって!何を焦っているんだお前は!?」
だが、強田の口調はどんどん強くなる。
「この国の命運が係ってるんだ……俺達が時間との勝負をさせられるかも知れねぇんだ!早く!」
国の命運と言われた神楽は、強田の尋常じゃない焦りと彼自身の使命感に突き動かされ、全ての管理委員会支部に一斉連絡をした。
しかし、どの支部も保管している隕石は発光していないと言い張る始末。特に魔法少女を優遇する国にある支部が保管している隕石はまったくの通常通り。発光の予兆すら見せなかった。
それを聴いた強田は俄然とし、作戦変更を余儀なくされた事を悟った。
「俺がやろうとした作戦は……既に失敗だ……」
「どう言う意味だ?」
「そんな悠長な事をしていたら……間に合わない!」
その頃、祭高明はエメラード・クライアスに話しかけていた。
が、
「去れ!こっちはそれどころじゃない」
エメラードに冷たくされる理由を理解する祭は、あえて皮肉を言って怒りを買おうとした。
「それは、何時まで経ってもRisquemaximumを殺せないからかい?」
その途端、祭の首に愛用の槍の柄を突き付けるエメラード。
「黙れ!邪魔する心算なら……例え子供でも容赦しない!」
このやり取りだけで、エメラードがどれだけRisquemaximumを恨んでいるのかを理解した祭。
(報告以上の憎しみ……この女、もう停まらんな?)
しかし、祭は気にせずに自分の言いたい事を勝手に語り始めた。
「このままだと……Risquemaximumに近付けなくなると言われても……と言われても?」
その途端、エメラードは瞬間移動で祭から一旦離れ、その後再度臨戦態度をとる。
「お前は何者だ!?なぜそこまでしてRisquemaximumを庇う!?」
だが、祭はしらばっくれる。
「庇う?僕が巨大怪獣を?寧ろ商品としか思っていません」
「商品だと?」
「ええ。僕は巨大怪獣から精製される薬品を取り扱う……薬剤師です」
少し困惑するエメラード。
「……で、管理委員会から巨大怪獣の遺体を奪ったコソ泥が、この私に何の用だ?」
ニヤリと笑う祭。
「さっきも言った通り……Risquemaximumの事ですよ?」
その言葉に焦るエメラード。
「奴の居場所、知っているのか?」
ここであえてじらす祭。
「大組織の後ろ盾が無い風来が得られる情報はその程度ですか?」
「大組織?コソ泥が大組織とは、大きく出たな」
ニヤリと笑う祭。
「Risquemaximumなら……兵器推進善業が管理する国で、他の巨大怪獣を相手に頑張っていますよ」
正直信用出来ないエメラード。
「ふっ。冗談はよせ。通常兵器を浴びる権利を奪い合う事は有っても、巨大怪獣の同士討ちをあのダメージヘアー星人が許すと思うか?」
「ははははは」
「何が可笑しい?」
「いやいや。大組織の後ろ盾が無い風来の哀愁に驚かされましてね。まさか、Risquemaximumがダメージヘアー星人を裏切った事に全く気付いていないとは」
エメラードにとって予想外の言葉であったが、ライラのRisquemaximumに対する態度を思い出せば、納得がいく推測でもあった。
「だからか……Risquemaximumをわざと泳がせて巨大怪獣の同士討ちを煽っていたのか?」
悔しそうに近くの岩を殴るエメラード。
だが、祭が告げるエメラードにとって都合が悪過ぎる情報はこれだけではなかった。
「それと、このままだと……魔法少女は兵器推進善業が管理する国に入国する事が出来なくなりますよ?」
しかし、エメラードにとっては小さな事であった。
「はっ!その程度の連中に妨害されて動けない様では、Risquemaximumを殺す事など夢物語。私を嘗めているのか?」
が、祭は再び大笑い。
「ははははは」
「また!?私を嘗めているのか!?」
「当然。大組織の後ろ盾が無い事がこれだけ不利だったとはねぇー」
さらに焦るエメラード。
「どう言う意味だ?」
祭がエメラードに告げた推測は、強田にとっては絶望的過ぎるモノであった。
「あの隕石が……兵器推進善業が管理する国を見殺しにしたとしたら?」
エメラードは言ってる意味が解らなかった。
「隕石が国を見捨てた?落下中なら兎も角、既に落下を終えて動かなくなった隕石が自分の意志だけで動くと言うのか?そんな馬鹿な―――」
祭の配下が隠し撮りした映像をエメラードに観せた。
「隕石が……光った?」
「どうです?これでもまだ、兵器推進善業が管理する国で、他の巨大怪獣を相手に頑張ってるRisquemaximumに近付けると……言い張る御心算ですか?」
そう言うと、握手を求める様に右手を差し出す祭。




