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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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七十一人目


「シシシ…ハハハハハハハハハハ!」


メトゥスは自分を取り囲むフェレス達を見て、腹を抱えて笑った。


己を捕えていた氷を全て破壊し、蛇に変わっていた右手を元に戻す。


「全員の記憶が戻ったかァ? それが本末転倒だってことに気付いてんのかァ? シシシ!」


元々フェレスが帝国中から記憶を奪っていたからメトゥスは弱体化していた。


フェレスでも殺せる程度まで弱っていたが、それも先程まで。


「チャンスタイムは終わったんだよォ! 今の俺は! お前ら程度のカスを踏み潰すのに、一分と掛からねえんだよォ!」


殺気を込めた言葉にレプス達は思わず息を呑む。


だが、フェレスとゼノは表情を変えることがなかった。


「それは本当か? アレだけ大勢の人間を確保していたお前が、たかが数人程度を確保しただけで完全復活できるのか?」


「ッ」


ゼノの指摘にメトゥスは大きく舌打ちした。


そもそもフェレス達が覚えているだけで無敵になれるのであれば、一番最初に逃げる必要などなかった。


それだけでは不安だったからこそ、騎士団や教団を確保した。


そう、不安だったのだ。


このようなすぐにバレる嘘で虚勢を張るほどに。


「お前は恐怖の塊です。誰にでも恐怖を与える存在だからこそ、誰よりも恐怖を知っている」


フェレスは死に怯える臆病な怪物を見ながら、告げる。


「アンタは私達が生まれるずっと前からいる怪物かもしれないけど、もう恐れない」


フェレスの隣に立ち、レプスは呟くように言う。


目の前の恐怖の蛇を前に、宣言するように言う。


「もうひとりぼっちじゃない。もう、アンタは怖くない」


「———————————————ッ!」


それは、恐怖の権化であるメトゥスにとって何よりの屈辱だった。


存在を削られるような苦痛だった。


恐怖されることで存在する怪物。


恐怖されることでしか存在出来ない怪物。


それ以外の生き方を許されない怪物にとって、その『否定』は何よりも耐え難いことだった。


「————————————夜よ」


メトゥスの輪郭が崩壊する。


人を装っていた原型が壊れ、液体と気体の中間のような黒い物体が吹き出す。


「——————夜風は、声に——————柳は、骸に」


黒い霧は暴風となって周囲を呑み込んでいく。


暗い影の中には、金色の目だけが静かに光り輝いていた。


「『恐怖(メトゥス)の蛇』」


暴風が収まった時、そこにいたのは伝承に登場する怪物だった。


見上げる程の巨大な身体。


鎌首をもたげた長い胴体。


鈍く光り続ける金色の目。


『…俺は、メトゥス』


冷たく暗い声が空より響き渡る。


『この世界を喰らい続ける、不滅の怪物だ!』


正真正銘最後の災厄(メトゥス)が始まった。








「ゼノは紫煙で牽制、ウルペースは能力で攪乱! ラーナはどちらかに付いて、緊急時には能力で守ってあげて下さい!」


動き出すメトゥスから目を離さずに、フェレスは指示を飛ばす。


「ムースは全員のサポート。負傷した者の救出をお願いします!」


それぞれが頷き、言われた通りを動くのを一瞥し、フェレスは横に意識を向けた。


共に並び立つレプスへと。


「それで、私達は?」


「…決まってますよ」


フェレスは白い爪を展開し、レプスも真似して氷の爪を作り出した。


互いに武器を構え、前に迫るメトゥスを見る。


「前線に決まってるでしょう!」


「了解!」


頭上より降り注ぐ暗い霧を前に、レプスは大きく氷の爪を振るった。


氷の爪から飛んだ粒が雪のように舞い、霧の中へ消えていく。


「凍てつけ『マエスティティア』」


瞬間、暗い霧は動きを止めて完全に凍り付いた。


それを見て、今度はフェレスが光の爪を振るう。


「『タブラ=ラーサの爪』」


バキバキバキィ! と激しい音を発てて凍結した霧は砕けた。


周囲全てを凍結して、動きを止める氷。


触れた全てのアニマを問答無用で破壊する光。


共に戦うことは初めてだったが、相性は最高だった。


「怪我の調子は大丈夫、フェレス?」


「…ええ、調子なら最高ですよ!」


隣に人がいることが何と頼もしいか。


孤独ではないことが、どれほど力になるか。


それを噛み締めて、フェレスは笑みを浮かべた。








ざわざわと大地の色が変化する。


大蛇へと姿を変えたメトゥスの影より出るのは、無数の蛇。


大地と共にあらゆる物を呑み込む蛇の洪水。


「か、攪乱って言ったけど、あんな数どうやって攪乱すればいいのよぉ!」


見ているだけ気分が悪くなる光景にウルペースは泣き言を言った。


「別に全てを相手にしなくていい。お前はお前の出来ることをすればいい」


諭すように言いながら、ゼノはキセルを振った。


舞い散る紫煙が波となって蛇の洪水と衝突する。


途端に規則的に動いていた蛇の動きが乱れた。


「適材適所ってやつだ」


『チィ! 十年前の死に損ないが、邪魔をするなァ!』


叫び声と共に、黒い流れ星が降り注ぐ。


目にも留まらぬ速度の光は一直線にゼノへ向かい、その身を貫いた。


瞬間、ゼノの身体が紙のように千切れ飛んでしまった。


『何ッ!…ダミーか!』


気が付くと、辺りにはゼノと同じ影が何人もいた。


ゼノだけではない、ウルペースもまた何人もいる。


外見だけでは何一つ区別できない偽者が大量にいる。


「やれば出来るじゃないか」


「そりゃ、どーもぉ」

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