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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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六十八人目


「………」


世界からメトゥスを消した。


帝国中の全ての人間の心に干渉するなど、アニマ寄生者ではありえない。


メトゥスから派生したアニマに、メトゥス以上のことが出来る筈がない。


弱体化した身体を抑えながら、メトゥスは冷めた頭で思考する。


(コイツ、まさか……)


その所業は正しく人ならざる怪物の力。


世界に恐怖をばら撒くメトゥスと同等………いや、同質の力。


(………まさか、俺と同じ…)


「ッチ!」


大きく舌打ちをしながら、メトゥスは振り下ろされた白い爪を躱す。


お返しとばかりに黒い蛇を数匹放つが、一瞬で全てフェレスに切り裂かれた。


「…本気で俺を殺すつもりか? そんな爪一本で、百年続いたメトゥスの蛇を終わらせるつもりかァ?」


瞳孔が細い金眼に殺意を込めて、メトゥスはフェレスを睨んだ。


蛇の言葉は、不安と恐怖を煽る。


「その爪で切り裂いて、それで終わりかァ? 本当に俺が終わると思っているのか? 仮にこの身がバラバラに裂かれても俺は蘇って見せるぜ」


そして、それに惑わされた者にメトゥスは殺せない。


何故ならその者の恐怖こそが、メトゥスなのだから。


少しでも不安を感じてしまえば、メトゥスは永遠に消えない。


「…怖いのですか?」


「………………………あァ?」


その言葉の意味が、メトゥスは本気で理解できなかった。


呆然とするメトゥスをフェレスは冷めた目で見る。


「その言葉、まるで攻撃して欲しくないように聞こえますよ…」


攻撃を躊躇わせるような言葉。


言葉を吐くだけで、決して自分から仕掛けようとしない態度。


それはまるで、フェレスと戦うことを恐れているように見えた。


「世界から忘れられること。消滅すること……それがお前の恐怖ですか」


「………」


メトゥスは答えなかった。


図星、と言うよりは言われて初めて気が付いたような表情。


すぐにその顔を怒りに変えて、影を纏う。


「見透かしたようなことを言ってんじゃねえぞ! ガキめ!」


影は、黒い霧となってメトゥスの姿を包み隠す。


「『憂鬱(メランコリア)の瞼』」


霧の中に声が響き渡る。


フェレスの視界が、瞼の裏のように闇に覆われた。


以前も使用していたフェレス達以外のアニマ能力。


「肉体が消滅しても復活できるのなら、どうして逃げた?」


光を失ったまま、フェレスは呟いた。


「赤鷲の爆発は通じていなかった。なら、どうして立ち去った? レプスを浚った時だってどうして仕掛けて来なかった?」


「…黙れ」


「僕に右腕を消されたからでしょう。恐れたんだ。殺されるならともかく、存在自体を消されることは初めての経験だったから」


「黙れェ!」


「あのまま戦って、身体を全て消されてしまったらどうなるか想像できなかったんだ」


フェレスは白い爪を払い、周囲を包む黒い霧を消し去る。


光を取り戻した目で、真っ先に自分へ近づくメトゥスを見た。


「切り裂け『タブラ=ラーサの爪』」


「ッ!」


咄嗟に突き出されたメトゥスの左腕に振り下ろされた爪が触れる。


熱した鉄に触れた氷のように、メトゥスの肩から先が蒸発した。


「ぎ、がああああああ! この野郎、また俺の腕を! 腕をォ!」


左腕を失ったメトゥスが絶叫する。


ざらざらと宙を舞う黒い残滓を振り払い、フェレスはメトゥスに接近した。


容赦も油断もない。


如何にフェレスの能力が天敵であっても、メトゥスは百年を生きる怪物。


一秒でも早く、止めを刺す。


「ッ…クソガキがァ!」


叫びながら、メトゥスは自分の影を踏み締めた。


それに呼応して黒い霧が爆発するように噴き出す。


視界を覆う黒い霧をフェレスが払った時には、既にメトゥスは距離を取っていた。


「上等じゃねえかァ。認めてやるよ、お前は俺の『敵』だ」


左腕の代わりに肩から巨大な蛇を生やしながら、メトゥスはフェレスを見た。


目の前にいるのは餌ではなく、同等の敵だ。


遊びは無しだ。


全力で目の前の天敵を殺す。


「お前を殺して俺は『次』へ移動する。俺が勝とうとお前が勝とうと今回の災厄はそれで終わりだ」


フェレスが死んでメトゥスは次の復活まで姿を消すか、


フェレスが勝ってメトゥスが完全に消滅するか。


どちらにせよ、イレギュラーの多かった今回の幕引きだ。


「エンディングは派手に行こうぜ。それが喜劇でも、悲劇でもなァ!」

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