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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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六十五人目


「脱獄だ、脱獄だー!」


「誰か、あの二人を止めろー!」


飛び交う叫び声を聞きながら、レプスとゼノは走る。


不安そうに辺りを見回しながら走るレプス。


対照的に余裕の笑みを浮かべながら走るゼノ。


「いや、なんと言うか。娑婆はいい物だ」


「呑気なことを言ってる場合!? どんどん騒ぎになってるわよ!」


「君は結構有名人だからな。悪いことは出来ないな、レプス」


「お前が言うなー!」


調子を狂わされたレプスが叫ぶ。


それを聞き流しながら、ゼノは周囲を見渡した。


殺気立った騎士達はゼノを見て、何事か叫んでいる。


メトゥスに連れてこられたレプスはともかく、恨まれているゼノに対しては当然の反応だ。


そう…『当然の反応』


(…意外とまともな奴が多いな。メトゥスに支配されている訳ではない? いや、それはあり得ない)


だとすれば、レプスに対してまで剣を向けていることに説明がつかない。


目の前の騎士達がメトゥスに従っていることは確実。


「…確か、メトゥスは他人のアニマをコピー出来ると言ってたな」


「え? う、うん。アングイスって偽名を名乗っていた時からコピーは使っていたよ」


本人は嫉妬のアニマと偽っていたが、全てのアニマを持ち主以上に使いこなして見せた。


それ故に、数で勝っていながらも脅威となったのだ。


「なら、どうして私のアニマを使わない? 騎士団を支配するつもりなら、私のウォルプタース以上に向いた能力もないだろう」


「あ、確かに………そう言えば、フェレスの能力もコピーしていなかったような」


「コピー出来る能力には幾つか例外があるようだな」


不死身の化物にも出来ないことがある。


それが何を意味するかは不明だが、突破口になるかもしれない。


「それともう一つ。奴はアングイスと名乗ってお前達に同行していたらしいが………それはいつからだ」


「結構前だよ。赤鷲と会う前には合流していたけど……それがどうしたの?」


「いや………奴は恐怖がなければ存在出来ない筈なのに、出現するのが早すぎると思ってな」


独り言のように呟きながら、懐からキセルを取り出した。


走りながら器用にキセルを咥え、前を向く。


その先には、十数人の騎士達が先回りしていた。


各々の武器を構え、脱獄犯を睨みつける。


その目にはゼノに対してではない恐怖の色があった。


「ちょ、ちょっと、どうするの」


「私に任せろ」


足を止めずにゼノはキセルを大きく振る。


その軌跡から紫煙が宙を舞い、毒蛇のように蠢いた。


「幸福で包め『ウォルプタース』」


瞬間、騎士達は紫煙の蛇に呑まれた。


騎士達の目から意志が消え、気怠い幸福感に包まれる。


剣を取り落とす騎士の表情を見て、レプスの顔が強張った。


「…相変わらず、凶悪な能力よね」


「そう言うな。無血で武装解除できると思えば、酷く優しい能力ではないか」


ゼノはそう言いながら、いつも以上に紫煙を吹くキセルを眺める。


久々の運動で張り切っているゼノだが、調子が良いのはゼノだけではないようだ。


(『妹』を守れて、やる気が上がっているのか………ふん)


「何にせよ、メトゥスに感付かれる前に脱出しないとな」


一度口に咥えた後、更に紫煙を吹きだすゼノ。


紫煙を拡散させ、効果範囲を広げていると異変に気付いた。


ある一点だけ、紫煙が通らない。


その部分だけが、紫煙を打ち消している。


「…これはこれは、予想より早いお迎えだな」


「何、笑っているの?」


「あんまり過保護が過ぎると嫌われるぞ、少年」


そう言って笑みを浮かべるゼノの頬を白い光が掠めた。


驚いたレプスが目を見開くが、ゼノは更に笑みを深める。


紫煙を切り裂きながら現れた白い男に、馬鹿にするような目を向ける。


「色々と言いたいこと聞きたいことはありますが………まずは、ウチの子を返してもらいますよ」


白い爪で完全武装したフェレスが薄ら笑みを浮かべて立っていた。

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