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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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六十人目


アルブスの決戦から、数日後…


カエルレウス地方の白い小屋には多くの患者が集っていた。


「傷が痛くて服が脱げないわぁ…神様、着替えさせてー」


「自分で着替えなさい。僕は外に出てますから」


わざとらしく言うウルペースにフェレスはため息をついた。


ウルペースの腹部に巻かれた包帯は、医者であるフェレスが処置した物だ。


包帯を巻いた範囲は広いが、見た目程の重傷ではなかった。


「酷いわぁ。乙女の身体に傷が残ったのに心配してくれないなんて…」


「大丈夫ですよ。跡が残らないように治療しましたから」


「………」


気を利かせたフェレスの言葉に、ウルペースは無言で笑みを浮かべる。


それに嫌な予感を感じながらも、フェレスは何も言わなかった。


「ってことは…神様ってば、私の裸を見ちゃった訳?」


「………まあ…」


「きゃー! それでそれで、私の身体見てどう思ったの? ムラムラしたりした?」


はしゃぐウルペースを見て、フェレスは先程より深いため息をついた。


痛む頭を抑えながら、ウルペースへ冷めた目を向ける。


「医療目的です。性的な目的や感情はありません」


「………うわーお、真顔で言い切られると少し傷つくわぁ」


今度は落ち込んだようにウルペースは表情を変える。


「…レプスにお熱みたいだし。やっぱり年下が好きなのかしらぁ」


「…小声で言っても聞こえていますよ」


「変身能力を使ってレプスと同い年くらいに…いや、それ以上にロリロリになれば…」


「聞こえてますからね」


心外だ、と言いたげにフェレスは鼻を鳴らした。


近くの机に置いてあったカップを取りながら、別の部屋へ目を向ける。


閉じられたままの扉の向こうには、別の患者がベッドを使っている。


ムースの部屋だ。


「………」


冗談を言う余裕があるウルペースとは違い、ムースは未だ眠り続けている。


メトゥスに刺し貫かれた胸の傷は治療したが、元々体力のないムースには辛い手術だったのか、まだ目を覚ますことがない。


「…あの子、まだ傍を離れないのぉ?」


「…責任を感じているのでしょう。懐いていたみたいですし」


眠るムースの傍を離れないラーナのことを思い浮かべ、フェレスは険しい顔をする。


ムースはラーナを庇ってメトゥスに刺し貫かれた。


その光景をラーナは見てしまったのだ。


孤独に苦しみ、ようやく心を開きかけていた相手を目の前で失う。


そのことはラーナの心にも深い傷を残してしまった。


「…心の傷は、医者にも治せないのでしょうか」


思わず呟いてしまったフェレスの言葉に、ウルペースは何も言わなかった。








「フェレス、今日の夕飯は私が作るわ!」


「…突然どうしたんですか、レプス」


そろそろ夕飯の準備をしようと考えていたフェレスに向かって、レプスが叫んだ。


キッチンに置いてあった鍋とフライパンを持ち、笑みを浮かべている。


基本的に家での食事はフェレスが用意していた為、こんなことは初めてだ。


「だってフェレスは治療で忙しいでしょ? だから代わりに私がする」


「いや、治療は大体終わりましたから大丈夫ですって」


「それに…フェレスだってまだ傷が痛むんでしょ?」


フェレスの服に隠れた包帯を見て、レプスは言う。


人の治療ばかりしているが、フェレス自身も無傷ではない。


メトゥスの力に苦しめられ、その時の傷もまだ癒えていない筈だ。


「私はほら、アイツに何もされなかった訳だし。元気だから」


危なげなく調理器具を触りながら、レプスは笑った。


「本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫だって、身体はこの通り無傷で…」


「…身体ではなく、心がですよ」


レプスの手が止まる。


思わずフェレスへ目を向けると、心配そうな視線を返された。


図星だった。


メトゥスはレプスに危害を加えなかったが、甚振るように悪夢を見せた。


仲間が次々と惨殺されていく、最悪の悪夢。


それはレプスの身体ではなく、心を深く傷つけた。


ラーナと同様に、心に深い恐怖が刻まれてしまった。


「…アイツ、本当に何者だったのかな」


恐怖から目を逸らすように、レプスは言った。


自分達に苦痛と恐怖を見せた男。


全てのアニマを生み出した元凶。


「…生きているアニマ。具現化された恐怖だと名乗ってましたね」


倒した後になってもフェレスは正体に確信が持てなかった。


ヴァニタスでダメージを受けていたことから、アニマであることは事実だとしても正体は何なのか。


どこから生まれた存在なのか、何を目的としていたのか。


「アニマは魂だとゼノが言っていました。だとすれば、アニマ自身に意志があっても不思議ではない」


事実、フェレスはアニマとなったクルスの魂と再会している。


しかし、メトゥスは単なる人間の魂と呼ぶには邪悪すぎる。


人の悪意が集まったような存在。


「恐怖……具現化…」


レプスは無意識に呟いた。


「誰の恐怖…?」

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