五十六人目
「フェレスー!」
騎士達とゼノの姿が見えなくなった後、ムースとラーナが合流した。
無事な様子の二人を見て、フェレス達も安心したように息を吐く。
「そちらも無事だったようですね。良かった」
穏やかな笑みを浮かべ、フェレスは言う。
その姿にフェレスの雰囲気が変わったことを悟るが、それを指摘することはなかった。
ムースは背中に隠れているラーナを一瞥し、口を開く。
「そんなことより、お前達に伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
「…ラーナがどうしたんですか?」
いつにも増して大人しいラーナを姿を見て、フェレスは首を傾げた。
普段から無口なラーナだが、まるで怯えるように身を隠す様子は異常だ。
青い顔をして不安そうにムースの背中を見つめている。
「俺もさっき知ったんだが………ラーナは俺達と同類だ」
言葉を選びながらムースは告げた。
ムース自身も混乱しているようで、曖昧な表現になってしまった。
それだけでは伝わらないと気付いたのか、改めてムースは言葉を続けた。
「ラーナはアニマ寄生者だ」
「…え?」
簡潔に告げられた事実に、レプスは言葉を失った。
七人のアニマ寄生者。
一人目を継承した例外も現れたが、十年前の災厄で能力を得た者は七人だ。
そして既に七人の寄生者にレプスは出会っている。
にも拘わらず、普通の人間だと思っていたラーナがアニマ寄生者…
「…つまり、彼女は八人目と言うことですか?」
無言で考え込んでいたフェレスはラーナに目を向けながら言う。
十年前に能力を得た七人以外だとするなら、それは新たな寄生者と言うことだろう。
七人目のように騎士団の目を逃れ続けた者かもしれない。
「いや、違う。ラーナは十年前に災厄を経験し、生き残ったアニマ寄生者だ」
ムースは言葉を続ける。
「ラーナは『三人目』なんだ」
ムースはラーナが告白した真実を告げる。
その真実にフェレス達は尚更首を傾げた。
「三人目? 三人目って…」
「アングイスの筈よぉ?」
長めの黒いマフラーと悪戯好きな性格が特徴的な青年の顔を思い浮かべる。
彼がラーナを連れて合流した時、最初に言った筈だ。
彼が『三人目』だと。
「…ラーナ自身がアニマを嫌っていたから、隠すように言ったらしい。その代わりにアングイスが三人目を名乗った」
騎士団内でも『三人目』の情報は直接会ったゼノしか知らなかった。
だからこそ、成立した入れ替わり。
騎士もフェレス達も、誰もラーナが寄生者であることに気付かなかった。
「…待って。それなら、アングイスは?」
レプスが違和感に気付き、ラーナの方を向いた。
フェレス達も同じように違和感を抱いていた。
アングイスがラーナの代わりに三人目を名乗っていたなら………アングイスは何だ?
『インウィディア』と言うアニマを持つ彼は、どうして嘘をついた?
七人のアニマ寄生者の誰とも違う能力を持つ彼は…何者だ?
「くはははははは! まさかここまで上手くいくとは…全く馬鹿な奴らだ」
その答えは、甲高い笑い声と共にやってきた。
黒色の外套、
地面に届く程長い黒いマフラー、
幼い印象を受ける八重歯、
そして…
『蛇のように瞳孔が細い金色の目』
「いよォ、お疲れ! お前達が頑張ってくれたお蔭で、こっちもかなり元気になってきたぜェ」
フェレスに似た、しかしフェレスよりも鈍い色をした目を持ったアングイスは笑みを浮かべた。
今までとは目の色も声色も異なった狂気的な笑みを浮かべていた。
「アングイス…」
フェレスは冷静な目で変貌したアングイスを見る。
その手に握られ、引き摺られている男を見据える。
「んんー? あ、コレ? 地下でこそこそウザかったから、準備運動に遊んでやったのよー。久しぶりに興奮したわー」
アングイスが興味なさげに見下ろしたのは、ボロボロになった『赤鷲』だった。
服装はボロ雑巾のように破れ、露出した肌には重度の火傷がある。
「でも、こんなもんじゃ満足できねェ。俺の熱い欲望を満たせるのは、悲鳴と死と恐怖なんかが混ざり合った混沌だけ! ああ、考えただけで絶頂しそう!」
赤鷲を蹴り飛ばし、アングイスは狂ったように叫ぶ。
そこにかつての姿はない。
全て演技。偽り。嘘だったのだ。
アングイスは、その正体は…
「この『メトゥスの蛇』が、お前達に本当の恐怖ってやつを見せてやるよォ!」
メトゥスはそう叫び、嗤った。




