五十二人目
聖堂を目指す道中、フェレス達の前に影が現れた。
フェレスとレプスはやむを得ず足を止めて、紫煙の向こう側を睨む。
既に他の仲間達はそれぞれの障害と戦ってくれている。
これ以上、戦力を分散する訳にはいかない。
「…よくここまで来たな」
だが、目の前に現れた男こそフェレス達の終着点だった。
紫煙を吹かすキセルを咥えた、紫の騎士。
騎士団長『ゼノ』がそこにいた。
「聖堂から出て、わざわざ出迎えにきてくれたのですか?」
「そんな訳ないだろ。お前ら化物から逃げようとしていた所だよ」
アルブスを包む煙と同じ色の煙を吐きながら、ゼノは目を二人に向ける。
「『久しぶり』…になるのか? お互いに積もる話もあるだろうよ」
「そうね…あなたはどうしてクルスを殺したの、何を企んでいるの?」
姉の仇を睨みながら、レプスは平坦な声で言う。
「『自分』を取り戻すこと。メトゥスを覚醒させて、奪われた記憶を取り返すこと…だった」
「…だった?」
言葉が過去形であることに疑問を抱き、フェレスは問う。
その質問には答えず、ゼノはキセルを口に含む。
「そもそもお前達はメトゥスとは…アニマとは何か知っているのか?」
ゼノは薄っすらと笑みを浮かべながら、二人に告げる。
彼らの知らないアニマの真実を。
その正体を明かす。
「アニマとは『魂』だ。何度目かの災厄で犠牲になった者達の魂」
「何度目って…?」
「お前達が経験した災厄が始まりではないのだよ。火災。竜巻。津波…この帝国の歴史を調べれば不自然な程、頻繁に災害が起きている」
一つ一つは有り触れた悲劇。
それが十年周期ほどで帝国を襲っている。
まるで何者かの意志のように…
「赤鷲が分かり易い例だろう。百年前に災厄で死んだ赤鷲の魂が、あの小僧に宿っている」
それと同様にアニマを持つレプス達は皆、悲劇を経験した誰かの魂を受け継いでいる。
レプスの脳裏に、ここへ来る途中に見えた『ある悲劇の光景』が過ぎる。
アレはきっとレプスに宿る魂が見せた記憶なのだろう。
「つまり、お前達の中には『前世』の魂が宿っているのだよ」
「…確かに興味深い話ですが、それと今に何の関係が?」
「まだ気付かないか?」
笑いを堪えるように顔に手を当てるゼノ。
顔を隠したまま、吹き出すように告げる。
「『ここ』にも魂が在ることに!」
ぐにゃり、と飴細工のように風景が歪んだ。
ゼノの姿が紫煙と混ざり合い、薄れていく。
甘ったるい匂いに包まれ、意識が霞む。
世界が、溶ける。
「何なの、コレ…」
呆然とレプスが呟く。
地面がドロドロと形を失っていく。
頭がチョコレートになったように溶けていく。
「…まさか」
空想の世界のような異様な風景。
心を狂わされたような甘く痺れるような感覚。
現実離れした能力を前に、フェレスはその正体に気付いた。
「そのまさかだ。お前達がそうであるように、私にも『前世』があるのだよ」
狂った世界でゼノは歌うように告げる。
「私は、一人目のアニマ寄生者だ」
「…地上が騒がしいな」
同じ頃、赤鷲を名乗る男は聖堂の地下空間にいた。
一足先に聖堂に辿り着いていたが、肝心のゼノの姿はなく人影すらない。
物色の末に『何故か開いたまま』だった秘密の抜け道から、地下空間に入り込んでいた。
薄暗いその空間には、全てが刻まれていた。
騎士団設立の経緯。
騎士団が戦い続けた怪物の姿。
金色の瞳を持つ黒き蛇。
「これは…」
赤鷲は壁に描かれた絵に触れる。
悲鳴を上げる人々を喰らう黒き蛇の絵。
村を焼き、町を凍えさせる怪物の姿。
その怪物の力が、赤鷲の持つアニマと酷似していた。
「まさか、アニマの正体は…」




