四十四人目
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『十年前』
赤を基調としたローブに身を包んだ小さな体。
一つ一つが馬鹿げた程の価値を持つ装飾をした幼い少年。
「赤鷲様。ご気分はいかがですか?」
「赤鷲様。以前教えた件ですが…」
騎士団の聖堂で人々は彼を『赤鷲』と呼ぶ。
書物に記された伝説の英雄の名前で呼ぶ。
本人が望む望まないに限らず、彼は赤鷲だった。
「………」
辺境の村で暮らしていた所を無理矢理連れて来られ、名前を奪われた。
何もかも奪われた彼には、何も残っていなかった。
(…どうして)
人を憎む心すらなかった彼は、一つだけ疑問を抱いていた。
それは、どうして自分が選ばれたのか。
赤鷲の子孫と言われても、彼には何のことか分からなかった。
ただ自分が周囲とは『違う』と言うことだけ漠然と理解しただけだった。
赤鷲の少年は、聖堂の窓から外を見た。
灰色の継ぎ接ぎ服を着た痩せた子供が、パンと肉を抱えて走っていた。
それを怒り狂った男達が追いかけている。
「………」
一日の食事に困る者もこの町にはいる。
だが、赤鷲の少年は食べることに困ったことがない。
望まずとも彼の前には豪勢な食事が並ぶ。
では、その違いは何だ?
ふと、赤鷲の少年は視線を別の場所へ向ける。
そこでは艶やかな黒髪の少女が両親に連れられて笑みを浮かべていた。
赤鷲の少年に肉親はいない。
里親も聖堂に連れて来られてから会っていない。
どうして、ここまで違う。
どうして…
「何か悩み事か? アクイラ君」
その時、赤鷲の少年は『名前』を呼ばれた。
彼が赤鷲となる前に呼ばれていた本当の名前で呼ばれた。
名前を呼んだ熊のような男は、何がおかしいのか満面の笑みを浮かべていた。
「確か、カニス…だっけ?」
「おお、名前覚えてくれたのか? 嬉しいな」
カニスは更に笑みを深める。
いつの間にか、辺りにはカニスしかいなかった。
赤鷲赤鷲と煩い侍女達はどこかへ行ったようだ。
「君のことは息子のように思っているからな。ウチには娘しかいないから少し憧れていたんだよ」
「…仮にも騎士団の象徴を子供扱いとは、不敬じゃないか?」
「何を言う。我々の象徴は赤鷲であって君じゃない。君はただの可愛い子供だ」
彼を『アクイラ』と呼ぶのは、騎士団内でカニス一人だ。
彼を赤鷲と特別扱いせず、ただのアクイラと接してくれる。
「………」
それが少しだけ、赤鷲にとって心地よかった。
「非科学的だな。幸運のお守りなんかで病気が治るか」
「や、やってみないと分からないじゃん」
フェレスとレプスの二人は秘密の公園で話し合っていた。
そこにクルスの姿はない。
最近、クルスは体調を崩して家で休んでいるのだ。
二人はそのクルスをとても心配していた。
「四葉のクローバーがあれば、きっと姉さんの病気だって…」
「クローバーは本来三つ葉。それが四つに変異しただけで幸運が訪れれば誰も…」
呆れたように言う現実主義のフェレス。
楽観的な考えや曖昧な空想が嫌いなフェレスらしい言葉だった。
諦めさせるようにレプスへ目を向け、ゲッと顔を顰めた。
「だ、だって、私には何も出来ないし、これくらいしか、姉さんの助けになれないし…ぐすっ」
「ああ、泣くな! お前を泣かせたこと知られたら、後からクルスに殺される!」
「ぐすっ…ううう」
完全に泣いてしまったレプスにフェレスは深いため息をつく。
公園を見渡してもクローバーはどこにも生えていない。
しかし、幸運のお守りを見つけないことには眼前の泣き虫は泣き止まないだろう。
しばらくキョロキョロと見回した後、ふと別の物が目に付いた。
「なあ、幸運のお守りを持っていけばいいんだよな?」
「…うん」
薄く細長い物を拾い上げ、レプスに見せるように高く上げる。
「『蛇の抜け殻』って確か幸運のお守りじゃなかったか?」




