四十三人目
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『十年前』
真新しい騎士服に身を包まれた細い身体。
加えて首に紫色のスカーフを巻いた青年はアルブスの町を歩いていた。
「お前、例の件についてどう思う?」
スカーフの青年は隣を歩く大柄な男に言う。
熊のようにガッシリとした肉体を騎士服に包んだ男は、機嫌悪そうに顎鬚を撫でた。
「赤鷲の子孫と言う奴か?」
「そうそう、あんなガキを連れてきて上層部は何考えてんだか」
呆れたようにスカーフの青年はため息をついた。
「過去の栄光に縋り付きたいのかもしれねえが、そんな胡散臭いことを続けても騎士団の格を落とすだけだと思わねえか?」
「…何より、選ばれた子供が不憫だ」
悲しげに呟く大男の姿に、スカーフの青年は笑みを浮かべた。
見た目は女子供でも殴り殺しそうな強面だが、実際は子供の涙にすら勝てない優しい男。
そんな男の性格を再確認したからだ。
「そう言えば、カニス。お前の娘も同い年くらいだったか」
「そうだな。最近忙しくて会っていないが…」
娘二人を思い出し、寂しそうに大男『カニス』は呟く。
親友のうじうじした様子に軽く苛立ちながら、スカーフの青年は人差し指を立てた。
「おいおい、そんなんでいいのか? ガキの反抗期なんてすぐだぜ? 可愛い内に可愛がらないとすぐに嫌われちまうぜ?」
「そうかなぁ。確かにあまりあの子達と遊んでやれないし、嫌われても…」
目に見えて落ち込むカニス。
そんな様子に苛立ちは頂点に達した。
「だーうぜえ! 未婚の俺の前で、ぐちぐち言ってんじゃねえよ!」
「…ゼノは格好いいから、すぐに良い人が見つかるさ。俺なんて」
「それがうぜえんだよ! 俺を出し抜いて先に結婚しやがったんだから、もっと幸せそうにしやがれ!」
スカーフの青年『ゼノ』は苛立ちながら叫んだ。
「ぼ、僕にこんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
そんな子供の喚く声を聞き流しながら、ゼノは近くで倒れる少女を見下ろした。
何度も殴られたのだろう、怪我が酷い。
少女に集団で暴行を加えていたのは、一人の貴族を中心とした数人の子供だった。
貴族の子供は、仲裁に入ったゼノが気に食わないのか叫んでいる。
「お前、騎士だな! 市民を守る騎士が何でこんな…」
ゼノは腰の剣を抜き、叫ぶ子供の眼前に向ける。
凍り付いたように子供の動きが止まった。
「失せろ、クソガキ」
「う、うわああああ!」
悲鳴を上げながら子供達が逃げていく。
それを見届けて、ゼノは笑みを浮かべた。
「最近のガキは根性がねえな。剣を向けられても自分を押し通すなら、少しは感心出来るんだが」
所詮、アレもアルブスに巣食う腰抜け貴族と何も変わらない。
権力だの財産だの、同じ人間に変わらないのにどうして差別したがるのか。
「う、うう…」
倒れていた少女が呻きながら、顔を上げた。
雪のような白い肌が多いアルブスでは珍しく、健康的な浅黒い肌の少女だった。
「よう、ガキ。怪我が痛むか?」
「うう…ひ!」
ゼノとしては優しく声をかけたつもりだったが、少女は小さく悲鳴を上げた。
怯えた目でゼノを見つめ、ゼノの腰にある剣で視線が止まる。
瞬時に暴行を受けていた時よりも青い顔をすると、慌てて立ち去ってしまった。
そんな反応に気分を害することなく、ゼノは少女の顔を思い出しながら顎を撫でた。
「…十歳くらいか。アレは将来美人になりそうだ」
流石に親子ほど年齢が離れた子供に興味はないが、ゼノは何となく思った。
あの子供がそのまま成長すれば、褐色肌の綺麗な美人になるだろう。
苛められて性格が歪まなければいいが…
(親子と言えば…カニスの娘はまだ調子が戻らないんだったか)
めそめそした親友を思い出し、ゼノは苦い顔をした。
元々カニスの娘は病弱で最近は外出することも出来ない程、酷いらしい。
何回か会ったことがあるが、明るいが子供らしからぬ気遣いが出来る少女だったと覚えている。
早く元気になることを祈るばかりだ。




