三十四人目
「君達と手を組みたい」
それは突然の出来事だった。
前触れもなく、小屋へ訪れた数名の騎士は開口一番にそう告げた。
アニマを異端と称する彼らからすればあり得ない言葉を。
大人数の為に小屋から外へ場所を移した彼らは互いに睨みあう。
予想外の出来事にレプスは目を丸くし、ムースは状況が分かっていないラーナを庇うように前に出る。
帰ってきていたウルペースとフェレスは真意を推測するようにミイラのような騎士へ目を向けた。
アングイスはまだ出かけていて戻ってきていない。
「僕の名はシーミアだ。君達が僕ら騎士を信用できないのも無理はない。だが、まずはこちらの話を聞いてほしい」
青空の下でシーミアは穏やかな口調で言った。
「…シーミアって確か、騎士団長の補佐じゃないの。肝心の団長はどうしたのぉ?」
その名前に聞き覚えがあったウルペースは疑問を口に出す。
度々カエルレウスを訪れていた騎士団長が、この場に現れない筈がないと。
「騎士団長は殺された」
簡潔に答えられた言葉に、ウルペースは衝撃を受けた。
死んだ。
騎士団を操り、アニマ寄生者達をも支配しようとしていた男があっさりと死んだ。
何者かに殺された。
「騎士団長を殺した男の名は『赤鷲』…最後のアニマ寄生者だ」
怒りに震えるようにシーミアはその名を呼んだ。
包帯に包まれた自分の体を抑える。
彼と戦った時の傷が痛むのだろうか。
「騎士団には君達を化物と罵倒する者もいただろうが、奴は正真正銘の化物だ。騎士団の精鋭達がまるで赤子のように殺されていった」
「…なるほど。つまりは手に負えない化物が現れたから、同じ化物をぶつけようって話ですか」
冷たい目を向けながらフェレスが口を開く。
「普段は異端扱いしていながら都合が悪くなったら利用する。人間らしくて結構ですね」
「き、貴様! 我らを愚弄するか!」
「…愚弄しているのはどちらですか?」
怒る若い騎士に静かに手を翳すフェレス。
騎士団の知識で『アニマ』を知っている騎士は得物を握ろうとしていた手を止めた。
「奴は危険だ! 十年前の災厄でさえ、奴の仕業であると言われているのだぞ!」
「…それは真実ですか?」
若い騎士の言葉にフェレスは目を細めながら、尋ねる。
この機会に出来るだけ情報を引き出そうとしているのだろう。
今まで敵対してきた騎士団から直接話が聞ける機会は少ない。
「…騎士団長はそう話していた。事実、奴は炎を操るアニマを使って人を殺している」
シーミアは包帯で覆われた顔を触りながら答える。
十年前の災厄には騎士団が関わっていると予想していたフェレスだったが、それは否定された。
騎士団が嘘をついている可能性もあるが、それ以上に『赤鷲』と言う人物が気になる。
「騎士団は奴に歯が立たなかった…次の狙いは恐らく、君だ」
そう言うとシーミアは黙り込んでいたレプスの方を向いた。
「わ、私?」
「…いい加減、その手の話は聞き飽きたんですよ。どうしてレプスが狙われなきゃならないんですか?」
苛立ったような声色でフェレスはシーミアを睨む。
先程の一件が影響しているのか、普段に比べて感情的になっていた。
「…十年前の災厄の実行犯、そしてその力の鍵。奴が鍵を手に入れて再び『災厄』を引き起こさないと断言できるか?」
シーミアは雲一つない青空を見上げた。
少し離れた所には不安そうに自分達を見守る村人の姿もあった。
「この村は静かで平穏だな。騎士とは平穏を守る為に存在する。あの災厄を二度と引き起こしてはならないんだ」
「だから、手を貸せと?」
「手を組むと言ってほしい。君達が力を貸してくれる代わりに我々は君達を保護する」
相手を落ち着かせるようにシーミアは言った。
騎士として、平穏を愛する者としての言葉だった。
優しい言葉だった。
「…優しすぎるな。嘘くさい」
フェレスはその手をシーミアへ翳す。
シーミアの背後で騎士達が慌てだした。
「お前の言葉には色がない。心がない。感情がない」
「交渉は決裂かな?」
諦めたようにシーミアは深いため息をついた。
それを見て、レプスは抑えるようにフェレスの手を握る。
「ちょ、ちょっとフェレス! 折角和解出来そうなのに!」
「そうだ! 我々が手を組まなければ奴を止める者はいなくなるぞ!」
シーミアの部下達も同意するように叫ぶ。
場が混乱する中でシーミアは無機質な目でフェレスを見ていた。
その時だった。
「そいつから離れるんだ、二人共!」
聞き覚えのある大声が辺りに響いた。
今までこの場にいなかったアングイスの声だった。
慌てた様子でフェレスとレプスを見ている。
いや、より正確には…
「今すぐその包帯男から離れるんだ!」
シーミアの方を睨むように見ていた。
取り乱したアングイスにフェレス達が首を傾げる中、シーミアは静かに包帯に手をかけた。
引き裂くように剥ぎ取って現れた肌には、火傷など少しもない。
ゴツゴツとした大柄な肉体。
曲げていた背を伸ばした二メートル近い長身。
近くに置いていた鞄から赤い羽根のマントを取り出して纏う。
「お前は…?」
印象が随分と変わったシーミアの姿に、フェレスは思わず呟く。
「不用意に近づくな、コイツは…」
「まあ、待て。自己紹介くらい自分でさせてくれ」
急に変化した気怠そうな声で男は言う。
呆然と自分を見つめる全ての人間に、名乗り上げる。
「俺は赤鷲。二人目のアニマ寄生者だ」




