二十八人目
「だから黒こそが至高だと言っているだろ!」
「いや、そこだけは譲れない。白こそが最も美しいんですよ」
朝から激しい口論を聞いて、レプスは目を覚ました。
何やら興奮して語り合っているのはフェレスと、新たな住人アングイスだ。
目に悪い白黒の二人を無視して、近くにいたムースの隣に座る。
「あの二人何やってるの?」
「…あー、お前は聞かない方がいいかもな」
呆れたような顔をしていたムースが頬を掻きながら言う。
煮え切らない返答にレプスが首を傾げると、単色二人は更にヒートアップした。
「漆黒のドレスだ。背徳と退廃の黒こそが女性を最も魅力的にみせるんだよ!」
「女性の魅力は清純さですよ。純白のワンピースとか最高じゃないですか」
「いーや、俺は断然黒だね…好きな女性の表情とかは?」
「そうですね。敢えて言うなら困り顔とか?…弄り甲斐のある子とか可愛いですよね」
「そこは同感だ。だけど俺は泣き顔とか好きだな。こうちょっと脅かして泣いちゃう子とか」
「…意外とサディストですね」
男二人の談義にレプスは顔を引き攣らせた。
と言うより、サディストは両方だとレプスは思う。
あまりに下らない内容に、思わずレプスは傍にいたムースを見る。
「フェレスの言う弄り甲斐のある子ってお前のことだよなぁ」
「…違うわよ。アンタまで妄想談義に混ざってたの?」
「別に。俺、女に興味ねえし」
何か誤解を招きそうなことを言いながらムースは下らなそうに二人を眺めた。
「つーか、アイツって女に関心あったんだな。外見だけじゃなくて中身まで淡白かと思ってたぜ」
「ああ、アレで案外ムッツリスケベな所あるから…と言うか、お腹空いた」
「朝飯なら向こうにあるぜ。今日はフェレスが作ってた」
「ん」
頷いてレプスは欠伸交じりに歩いていく。
それを眺めながら、ムースはふと辺りを見渡した。
更に二人も追加されていよいよ大所帯になってきた。
五人のアニマ寄生者に無関係な少女が一人。
計六人の人間が一つ屋根の下で暮らしていることになる。
アングイスの方は剽軽な性格故にすぐに馴染んだが…
「…もう一人は、どうだか」
「………」
もう一人の新入り、ラーナは部屋で小瓶を眺めていた。
一人静かに水の入った小瓶を傾けたり、揺らしたりしている。
元々言葉を発することが出来ない少女だが、そのひそかな趣味も物静かな物だった。
「こんにちは、おチビちゃん。お元気かしらぁ?」
そんな静かな風景を壊し、荒々しく扉を開けたのはウルペースだった。
見た目も性格も正反対の彼女を見て、ラーナは僅かに頬を強張らせた。
「いや、あっちの青年の方には挨拶したけど、おチビちゃんの方はまだだったこと思い出してねぇ」
勝手に喋りだすウルペースの言葉を聞き、ラーナは近くの羊皮紙に文字を書く。
そして紙をウルペースの目の前に出し、自分を指さした。
『ラーナ』
「ラーナちゃんね。私はウルペースよぉ、よろしくね?」
ウルペースは笑顔でそう返したが、ラーナはすぐに顔を背けた。
用は済んだとばかりに小瓶観察を再開した。
「…えーと、他に何かないのぉ? 趣味とかぁ?」
珍しいタイプの相手にやり辛そうにウルペースは言う。
ラーナは話は聞いているのか、軽く小瓶を叩いた。
恐らく、この小瓶観察が趣味だと言っているのだろう。
少し好奇心がくすぐられたウルペースは近くに寄って小瓶を覗き込んだ。
「何コレ? 綺麗な貝殻でも入ってるの?」
その言葉に、ラーナは再び羊皮紙に羽根ペンを走らせた。
『カエル』
「……………………え?」
紙を見て、小瓶を眺めるウルペース。
水が入った小瓶の中には、所狭しとカエルが詰まっていた。
色とりどりでカラフルで毒々しい光景が広がっていた。
覗き込んでいたウルペースの全身に鳥肌が立つ。
「ぬぬ、ぬるぬるしてるぅ…!」
悲鳴に近い声が部屋中に響いた。




