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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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24/73

二十四人目


雨が降り続けるカエルレウスを歩く少女がいた。


「………」


緑と白の水玉模様の服に身を纏った少女だった。


雨に濡れた髪は艶やかな黒色で、前髪は目が完全に隠れてしまう程に長い。


整っているが物静かで人形染みた容姿。


年齢は十四、五歳と言った所で平均よりは低く華奢な体格をしていた。


触れたら折れてしまいそうな身体を雨に打たれながら、少女は佇む。


「あんまり濡れると風邪ひくよー」


その少女に声をかけたのは、子供っぽい笑みを浮かべた青年。


黒い外套、黒いマフラーとやたら黒い格好をしている。


異様に長いマフラーは風もないのに、ひらひらと宙を舞っていた。


「ラーナも長旅で疲れたでしょう。今日は宿でも取って休もうか?」


「………」


「それよりお腹空いた? 自然豊かなカエルレウスはどんな料理があるのかねー」


「………」


「お、ちょっと興味持った? 全くこの子ってば、結構食いしん坊なんだからー、あははは!」


無口な少女『ラーナ』と饒舌な青年は対照的だった。


先程からラーナは声一つ発していないが、青年は気にした様子もなく頭を撫でている。


「ちっこくてもレディなんだから、食べ過ぎは良くないって…ぐはっ!」


からかうように笑う青年の腹にラーナの小さな足がめり込んだ。


相変わらず声は発していないが、その表情は少し怒っているように見えた。


「み、鳩尾は…鳩尾は、駄目だよ…ラーナ」


「………」


蹴られた場所を抑えて蹲る青年を置き去りに、少女は歩き出す。


物静かだが、性格まで大人しい訳ではないようだった。








レプスとフェレスはお揃いの白い傘を差して、雨の中を歩いていた。


「…いよいよ本格的に降って来たわね」


「そうですね。全く、傘くらい持っていけば良かったのに」


買い出しを頼んだウルペースを思い、フェレスはため息をつく。


中々帰ってこないウルペースを二人で迎えに来ていたのだ。


雨は酷くなる一方で、どこかで雨宿りしているであろうウルペースは全く見つからない。


雨音を聞く内に、フェレスは気分まで滅入ってきた。


「やれやれ、昔から雨は苦手です。どうもセンチメンタルな気分になってしまって…」


「…アンタが自分から昔の話するなんて珍しいわね」


「…そうですか?」


不思議そうなレプスの言葉をフェレスはいつもの薄ら笑みで誤魔化す。


そんなことを口にする時点で、既に感傷に浸っていたようだ。


これだから雨は嫌いだ。


ろくでもないことまで口にしてしまいそうで、


「そう言えば、アンタもアルブス出身なのよね?」


レプスは思い出したように言う。


「アルブスに住んでいた頃のアンタってどんな感じだった? どんな子供時代を過ごしたのよ?」


目を好奇心で輝かせながらレプスは尋ねる。


同郷と言う共通点を見つけたせいか、少しだけ浮かれたような声だ。


「別に普通ですよ。敢えて言うなら、面白味のない子供でしたかね」


秘密主義の割にはフェレスはあっさりとレプスの疑問に答えた。


「貴族の息子として育ち、当たり障りなく生きていました…今の大して変わりませんね」


「なーんだ………って、アンタ貴族だったの!?」


「生まれは、ね。今となっては何も残ってませんよ」


フェレスの過去を知り、色々聞こうとしたレプスだったが、そのフェレスの顔を見て口を閉じた。


『何も残ってない』と称した時の、虚ろな表情を見たからだ。


「そう言う君は? それこそ僕とは違って、愉快な幼少期を過ごしていそうですが」


「何かちょっと馬鹿にしてない? 私だって普通よ。お姉ちゃんと遊んだり、友達と遊んだり…」


過去を思い返しながら、レプスは目を細めた。


白い木が目印の秘密の場所で三人で遊んだ日々、


いつも優しかった姉と、


憧れていた友達が…


「友達が、いたんだけど…おかしいな、名前が思い出せないや」


考え込むように頭を抑えながらレプスは呟く。


姉のことは思い出せるが、その『彼』の名前が思い出せない。


そこまで記憶力が悪い方ではなかった筈だが…


子供の頃の話だからだろうか?


いや、でも…


「そう言う難しい顔ばかりしていると老けますよ」


言いながらフェレスはレプスの頬を掴んだ。


予想以上に柔らかいそれを餅のようにこねる。


「ほほう、コレは良い物だ。少女の肌は何とも心地よいですね…」


「な、何すんのよ!」


顔を赤く染めたレプスは気安い手を払い退ける。


結構本気で叩いたが、フェレスは薄ら笑みを浮かべるばかりだ。


この男、丁寧な割に意外とムッツリスケベなのではなかろうか。


失礼な上にデリカシーに欠け、おまけに馴れ馴れしい。


「…思い出せないけど、『彼』はコイツよりマシだったわ」


自分が子供の頃にひそかに憧れていた『彼』を思いながら、レプスは呟いた。


「ん? 何か言いました?」


「何でもないわ。昔のことを思い出しただけ」


そう言いながら、レプスはフェレスから顔を背けた。

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