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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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19/73

十九人目


「その仮面女がこんなことになるなんて、私が寝ている間に何があったの?」


「頭が緩い者同士、気が合ったんじゃねえの?」


目を覚ましたレプスとムースはそんな会話をする。


二人の視線の先にはフェレスとウルペースの二人がいる。


どうやらウルペースが用意したホットミルクを差し出し、


フェレスがそれに困惑しているようだ。


普段の薄ら笑みが完全に崩れていることに、ムースは思わず吹き出した。


「…私には散々サディスティックぶりを発揮したくせにこの従順っぷりは何よ」


「いいじゃねえか、珍しいもん見れたんだし………つーか、何か言葉に棘がねえか?」


「別にー」


拗ねたように言うレプス。


それがまるで兄を取られて拗ねる妹のようで、ムースは再び吹き出した。


「あの人も『仲間』になるのかしら?」


「おやおや? お前は頭の緩い博愛主義だと思っていたが、嫌いな相手もいるんだな」


「嫌いと言うか、苦手と言うか…」


自分の感情を言葉に出来ないように、レプスは口を閉じる。


ウルペースの強烈なキャラクターに苦手意識を抱いているのは、レプスも同じようだ。


「まあ、仲間になるかはともかく。聞けることだけは聞いておこうぜ」








「一人目がレプスの姉? それは本当なんですか?」


「私はそう聞いてるわよぉ。神様」


狐面を被り直したウルペースは改めて言った。


レプスの姉が呪いをかけた。


その言葉を思い出し、レプスは若干顔を強張らせた。


「でも、一人目は十年前に死んでいるんだろ?」


「…ええ。私の姉が死んだのも、十年前の火災よ」


重々しくレプスは頷く。


十年前に死んだ一人目のアニマ寄生者と、


十年前に死んだ姉、


それは同一人物なのだろうか?


「人にアニマを寄生させる力を、一人目は持っていた。そして、それと同じ力がお嬢ちゃんにも宿っていると聞いているわぁ」


「私はそんな話、一度も聞いてないけど…」


「それはあなたが逃げ出してから分かったことなのよぉ。だからこそ、それまであなたは大した拘束もされていなかった」


騎士団も当初は、ウルペースと同程度にしかレプスを見ていなかった。


故に拘束もせず、逃亡を許してしまった。


「…騎士団は私の『本』を狙っているのかと思っていた」


「本?」


レプスの言葉にウルペースは首を傾げた。


仮面で顔は見えないが、その反応は演技に見えない。


騎士団が本を狙っていると言うのは、レプスの勘違いだったのだろう。


レプスはフェレス達にも初めて見せる『本』を取り出す。


姉との思い出の場所に埋めてあった、恐らく姉の遺した物。


見た目は単なる古ぼけた本だった。


土を被せられていたことで幾分色褪せた小さな本。


表紙には薄っすらと蛇が描かれていた。


「これって騎士団のマーク? かなり古そうだけどぉ…」


ウルペースは表紙をなぞりながら呟く。


サンクトゥス騎士団は蛇を象徴としている。


その理由は誰も覚えていないが、現在の騎士服にもその姿は描かれている。


表紙の絵はそれに酷似していた。


「中身は読んでみたのか?」


「ええ、何と言うか…童話? みたいな内容で、人々に恐れられていた大蛇を騎士が倒す話」


王道的と言えば、王道的な内容にムースはため息をついた。


もう少し面白そうな内容を期待していたのだろう。


「騎士…やっぱり、騎士団に関係する本なのかしらぁ?」


「それにしたって、どうして童話を騎士団が欲しがってるなんて愉快な勘違いをしていたんだ?」


「だって、コレを拾ってすぐに騎士団に追われるようになったから…」


蛇の本を仕舞いながらレプスは自信なさげに言った。


騎士の目的はこの本ではなかった。


だとすれば、秘密の場所に埋めてあったコレは何なのだろう?


偶然誰かが埋めた悪戯?


それとも…


「おい、どうしたフェレス。さっきから黙って」


考え込むレプスの隣でムースは首を傾げた。


言われてみれば、先程からフェレスが静かだった。


「…いや、何でもありませんよ。蛇の絵がかなりリアルで…怖いなぁって」


薄ら笑みを浮かべてフェレスは頬を掻いた。


普段は飄々としているが、意外と爬虫類が駄目な人なのだろうか。


「でも、同感ね。私も蛇って苦手なのよ」


「そう言えば、お嬢ちゃんに大蛇は効果抜群だったわねぇ………って睨まないでよぉ、神様ぁ」


フェレスは冷たい目でウルペースを睨んでいたが、レプスは首を傾げていた。


ウルペースに心を嬲された記憶はフェレスに消されているからだ。


「…ところで、さっきから気になっていたんですが」


腕に絡み付こうとするウルペースをあしらいながら、フェレスは彼女の仮面に目を落とした。


「どうして、元の顔を取り戻したのに仮面を付けているのですか?」


狐面を指で弾きながら言うと、ウルペースはピタリと動きを止めた。


微かに身体が震えている。


「そ、それはアレよぉ、アレ! えーと、顔を見せるの久しぶりだし? 仮面を被る生活に慣れちゃって、ないと落ち着かないと言うかぁ…え、えへへ」


キャラがブレる程に動揺するウルペース。


そんな姿をレプスは首を傾げて、ムースはニヤつきながら眺めていた。


「か、神様にこんな私の顔を見せるのが、恐れ多いと言うか…ほ、本当は貧相な身体を見せるのも少し恥ずかしいと言うかぁ」


「なるほど、なるほど…」


薄ら笑みを浮かべながらフェレスは狐面が少しズレたウルペースを見つめる。


白い肌が多いラクリマ帝国で、浅黒い肌は注目を浴びるだろう。


二十歳前後の割にスレンダーな身体は、年下のレプスにも負けるだろう。


結論を言うと、


「変身してないと自分に自信が持てないんですか? 意外と繊細なんですねー」


「~~~~~~!」


声にならない悲鳴を上げて、ウルペースは寝室に引っ込んでしまった。


フェレスはムースへ目を向け、共に悪い笑みを浮かべた。


「あの大胆な服装も、妖艶な身体もコンプレックスの反動ですか。まさに『虚飾』ですね」


「くくく…自分を偽って見せても、本質は変わらねえってのに馬鹿だな」


寝室の扉を眺めながら笑う二人を、レプスは冷めた目で見つめていた。


「それ、アンタ達も人のこと言えないから」


「「うっ!」」

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