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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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18/73

十八人目


最初は恵まれた才能だと思った。


他人の個性を模倣する能力は、自分のコンプレックスを満たすのに最適だった。


アルブスでは珍しい浅黒い肌も、


人より発育が悪いこの身体も、


全て他人を模倣することで理想的な自分へ変わることが出来た。


手は、あの子の可愛い手。


足は、あの子の綺麗な足。


そうして人を真似る内に、自分の『元の姿』を忘れてしまった。


自分はどんな目をしていた?


自分はどんな口をしていた?


鼻は? 耳は?


私は、私は一体誰なの?


その時になってようやく、私はこの能力が魔法なんて便利な物ではないと悟った。








「それで、あの女を結局どうする訳?」


小屋の中にあった椅子に座りながら、ムースは尋ねた。


その視線の先には、別の椅子に座るフェレスがいる。


「つーか、驚いたぞ。留守番してたら、気絶した女を二人も担いでくるとはな」


「仕方ないでしょう。レプスもウルペースも全然起きなかった訳ですし。どちらもそれなりに身長があるから結構重かったです」


「…元神の俺でも、今のはデリカシーがねえ発言だと分かるぞ」


隣の部屋で眠っている二人を考えながら、ムースはため息をついた。


「そんでどうするよ。俺が相手をした連中は下っ端だからテキトーに遊んでから帰したが、あの女はそう言う訳にもいかねえだろ?」


「確かに。頭がちょっとアレですけど、アニマ寄生者の一人ですし。出来れば騎士団に返したくはない所ですね」


「じゃあ、どうする?」


「記憶を消して、どこかの森にでも捨ててきましょうか」


「…俺もそうだが、アンタも大概だよな」


何故かフェレスのストッパー役になっていることに疑問を抱き、ムースは椅子に凭れる。


子供のように椅子を軋ませながら思考する。


「…しっかし、騎士団も本腰入れて来たんじゃねえか? 秘密兵器のアニマ寄生者まで送り込んできたくらいだし」


今までに騎士団に寄生者がいると言う情報はなかった。


それほど隠し続けてきた札を切る程、騎士団も本気と言う訳だろうか。


「それともその秘密兵器の独断か?」


「うーん。その可能性も否定できませんね。彼女は忠誠や信仰とは程遠い人物でしたし」


気まぐれな利己主義者。


それがフェレスがウルペースに抱いた印象だった。


「どちらにせよ。奴らはアレを飼い馴らす程、ヤバい組織だってことだな」


「そうですね。ひょっとしたら残りの寄生者も騎士団が確保しているのかも」


「…笑えねえ冗談だ。化物同士で力を合わせて騎士団を倒しましょうってのが、レプスの作戦じゃなかったのかよ」


今ここにいる寄生者はウルペースも合わせて四人。


空想破壊、寒気具現、夢想空間、変幻自在、


いずれも直接戦闘タイプとは言い難い、くせのある能力ばかりだ。


とても騎士団を相手に出来るとは思えない。


「全く、もう少し戦力になりそうな奴はいねえのか」


「…君が一番使い勝手悪そうですけど」


「う、うるせえ! お前は今回の俺様の活躍を知らねえのか!」


ムースが黄緑色の液体を取り出し、何事か説明しようとした時、隣の部屋のドアが開いた。


狐面を外した二十歳前後に見える素顔、


黄色を基調とした舞台衣装は同じだが、幾分スレンダーになった身体つき、


帝国では珍しい部類に入る浅黒い肌、


本来の姿を取り戻したウルペースは目を細めて、フェレスを見ていた。


「…救世主、いや神様」


ウルペースがぶつぶつと呟いた言葉に、フェレスは首を傾げる。


そんな様子は余所に、素早くフェレスの下に近づいてその手を取った。


「あなたは神様よぉ! 私は、あなたのお蔭でアイデンティティを取り戻すことが出来たわぁ!」


舞台役者よりもオーバーに感動を全身で表す。


フェレス自身は知らないことだったが、これこそがウルペースの目的だったのだ。


能力の過度の使用が原因で失った個性を取り戻す。


その為にアニマから解放されようとしていた。


その為に騎士団と手を組んでいた。


その為にレプスを狙っていた。


だが、その悲願は意図せず形で叶ってしまった。


アニマを空想に戻すと言う、アニマ殺しのアニマによって。


「私はこのご恩を一生忘れないわぁ。ご命令があったら、何なりとお申し付け下さい、神様!」


「………………………」


珍しいことに、非常に困った表情を浮かべるフェレス。


常に冷静で聡いフェレスでも、この状況は予想外だった。


そんなフェレスの隣では、ムースが腹を抱えて笑っている。


それを一瞥し、フェレスは口を開く。


「ムース君。神様ってどうやるんですか?」


「さあな。好き勝手命令すればいいんじゃね?」


面倒事を予感して、フェレスは深いため息をついた。

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