↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メトゥス  作者: 髪槍夜昼
PR
17/73

十七人目


「………」


ウルペースは目の前の男を見つめる。


大蛇の変身は、この男に破壊された。


イリテュムで作り出した『皮』は他者の個性を完全に複写する。


肉親だろうと騙し切る外見特徴、


親友だろうと見抜けない思考模倣、


それがイリテュムの強みだが、反面『皮』自体は脆い。


強い衝撃を受ければ、簡単に壊れてしまう。


「イリテュム!」


ならば、今度は誰にも触れられない姿を演じればいい。


再びウルペースは怪鳥へ姿を変える。


フェレスに考える隙を与えずに、宙を縦横無尽に飛び回った。


レプスを翻弄した速さ。


目視すら難しい鳥の速さなら、何もすることは出来ないだろう。


羽根を休めないまま、ウルペースはフェレスを一瞥した。


「随分とデカい鳥ですね」


その時、ウルペースはフェレスと目が合った。


人を遥かに超えた速度の中で、確かに目が合った。


微かに動揺するウルペースの身体に亀裂が走る。


「『ヴァニタス』」


同時にウルペースの身体が決壊した。


一度も触れることなく、フェレスはウルペースの能力を破壊した。


慌てて距離を取りながら、ウルペースは思考する。


(…なるほど、キーは腕じゃなくて『目』なのねぇ)


視界に入ったアニマを破壊する能力。


それがフェレスの持つアニマの能力か。


だとすれば、一瞬でも視界に入ってしまう鳥は有効的ではない。


必要なのは死角に入る速度ではなく…視界を埋める数量。


ウルペースはフェレスから離れながら、足元の木の葉を数枚拾う。


「行くわよぉ。私のとっておき!」


舞台役者のように高らかにウルペースは手を上げた。


その手から木の葉が舞い落ちる。


花弁のように風に揺られる木の葉のシルエットが膨んだ。


原型を無視した急激な変化。


一瞬の内に、木の葉は全てウルペースの姿へ変貌した。


生み出された偽者は示し合わせたように、森の中へ消える。


「今生み出したのは私と同じ思考回路を持つ偽者よぉ。彼女達は森の中で姿を変えて、死角からあなたを攻撃する」


そこに偽者、本体と言う識別はない。


偽者達は命令を下さなくても、それぞれがウルペースと同じ思考に至ってフェレスを狙う。


「正直、あなたには色々と聞きたいこともあったけど。これで終わりよぉ」


森の中から、複数の影が飛び出す。


殆ど全方位から、視界を埋めるように同時に襲い掛かる。


「………」


迫りくる脅威を認識しながら、フェレスは表情を消した。


全てを視認する余裕はない。


丁寧なことに全ての偽者が、怪鳥へ変化している。


別方向を見る余裕は与えられないだろう。


本体を含む全てのウルペースが、フェレスを視界に捉える。


それだけで十分だった。


「『僕を見るな』」


白い、雪よりも白い光が瞬く。


それをウルペースが見た時には、全てが終わっていた。


全ての偽者が同時に、崩壊する。


皮膚も服も全て崩壊して、木の葉へ戻る。


その冗談みたいな光景を見て、ウルペースはフェレスの正体を悟った。


「…『見る』ことじゃなくて『見られる』こと? キーは『目』じゃなくて『あなたの存在そのもの』だと言うの?」


どれだけ早くても、無関係。


どれだけ多くても、無関係。


全てのアニマはフェレスを視認するだけで崩壊する。


まるで魔法が嘘だと気付くように、


具現化した心は、単なる空想に戻される。


打つ手がない。


アニマを武器にする限り、フェレスに勝つことは出来ない。


「………」


無言でフェレスはウルペースへ近づく。


表情のない顔に威圧され、ウルペースは一歩足を退いた。


「くっ…な、なら、あなたの恐怖のイメージに変身すれば!」


レプスの時と同様にウルペースは変身しようと試みた。


フェレスの恐怖のイメージを模倣しようとした。


だが、何も起こらない。


「な、何で? 何で何も起きないのよ…あなた、心がないの?」


また一歩、近づいたフェレスを見つめる。


手も足も出ない無力感。


ウルペースはフェレスに恐怖を感じていた。


他人に恐怖することなど、この力を使いこなせるようになってから一度もなかった。


「…くっ」


恐怖で足が縺れ、ウルペースは転倒した。


拍子に狐面が顔から外れる。


ずっと隠されていたウルペースの素顔が露わになる。


「!」


その素顔に、表情を消していたフェレスは眉を歪めた。


少し驚いたような顔をしながら、ウルペースの素顔を見つめる。


そこには、何もなかった。


ぼんやりと黄色の輪郭が浮かび上がっているだけで、目も鼻も口も存在しなかった。


首までは人間と変わらないのに、首から上が存在しない。


『化物』


そんな単語が思わず頭を過ぎる。


「仮面の中は、そうなっていたんですか」


「み、見るなぁ!」


叫び声と共にウルペースは巨大な狐へ姿を変える。


周囲の大木より巨大な姿を見ても、フェレスは薄ら笑みを浮かべた。


「化け狐ですか。なるほど、あなたのことが分かってきましたよ」


先程までの無表情が嘘のように、フェレスはいつもの調子で笑う。


「『虚飾』のアニマ。見栄と虚栄の変身能力ですか、自分の姿にコンプレックスでもあるんですか?」


「ッ!」


激昂のままにウルペースは襲い掛かる。


冷静さを完全に失って、その前足をフェレスへ叩き込む。


瞬間、化け狐の姿が粉々に弾けた。


「僕のヴァニタスについて、あなたは一つだけ勘違いをしています」


空中に放り出されたウルペースの腕を掴んで引き寄せる。


狐面が外れたままのウルペースはされるがままだった。


「確かに視認されるだけでも条件は満たせますが、もっと近づいたり直接触れたりした方がより精密に壊すことが出来る…」


「…え?」


元の姿に戻ったウルペースの身体に…更に亀裂が走る。


黄色を基調とした派手な舞台衣装も、


妖艶な肢体も、


『輪郭だけしか存在しない顔』も、


フェレスのヴァニタスは全てのアニマを破壊する。


バキバキバキッ! とガラスが砕けるような音と共にウルペースの『最後の仮面』が剥がれ落ちた。


中から現れたのは、浅黒い肌とスレンダーな身体つきの女。


ウルペースとは似ても似つかない、されど本物のウルペースの姿だった。


「何だ、本当の素顔は案外普通なんですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。