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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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十二人目


「騎士団に追われている? あんなの弱い偽善者の集まりじゃねえか」


整理整頓と掃除まで済ませた後、椅子に座ったムースは言った。


別の椅子にはレプスが、白いソファにはフェレスが座っていた。


「仮にも『俺様』を倒した奴が恐れる連中か?」


「何事にも相性と言う物はありますよ。現実世界では君が何も出来ないようにね」


「ぐっ…」


神と呼ばれたムースにも弱点はある。


それは夢の中で無敵だろうと、現実世界では単なる少年に過ぎないこと。


現実では夢のような現象は起こせず、傷を負えば死ぬ。


先日もそこを突かれてムースは敗北したのだった。


「他人の夢は叶えられても、自分の夢は叶えられないのよね」


「ままならない物です。一概に一般人を凌駕しているとは言えないでしょう?」


水のない空間でレプスが無力なように、


アニマを用いない接近戦ではフェレスが無力なように、


化物染みたアニマ寄生者も無敵ではない。


いつでも数の不利を覆せる程、強くもない。


「…納得した。確かに教団を離れた今、連中に狙われるのは厄介だな」


大々的に公言しながらムースが狙われなかったのは、教団を隠れ蓑にしていたからだ。


それがなくなった今、異端者たるムースが狙われる可能性は十分にある。


レプスが狙われていることも他人事とは言えない。


「騎士団について何か知っていることはないの?」


「…百年以上の歴史があるってのは、有名な話だよな。場合によっては皇帝より支持されているとも」


百年の歴史のある組織であること、


人命救助などの功績から人々の支援を得ていること、


それは帝国人の一般常識だった。


「あとは…十年前から『異端審問』を行っていることも知ってるよな?」


異端審問。


人間の中に潜む『異端』を発見し、それを討伐すること。


騎士団が公然と行っている悪行の一つだ。


異端と言っても、それは騎士団の偏見と独断で決めつけられた人間である。


アニマ寄生者も異端認定されているからこそ、彼らに狙われているのだ。


「そう言えば、騎士団の動きが活発になったのは十年前からね。それ以前はここまで酷いことはしていなかった筈なのに」


「十年前の一件で、騎士団もかなり傾いたらしいですし。それが原因では?」


フェレスがホットミルクを用意しながら眠そうに呟いた。


そう、十年前の大火災はアルブスで起こった。


アルブス地方は、騎士団の本拠地である『聖堂』がある場所だ。


当然、災厄時には大被害を受けたのだろう。


「失った権力を取り戻すべく、武力と異端審問で立て直そうとしてんじゃねえか? 恐怖で人を縛り付けるやり方は案外上手くいくものだぜ」


獰猛な笑みを浮かべて神と呼ばれた少年は言った。


その態度に僅かに眉をひそめながらレプスはフェレスの方を向く。


「とにかく、ムースは新しい情報は持っていないようだし、また別の情報を集めないと」


「そうですね。当初の目的だった戦力としても、ムースはあんまり役に立ちそうにないですし」


「…おい、誰が役立たずだ!」


聞き捨てならない、とムースは椅子から立ち上がって詰め寄る。


対してフェレスはのんびりとホットミルクを飲みながら、薄ら笑みを浮かべた。


「だって、起きてる君は無力じゃないですか」


「うぐっ…!」


「アニマを使うにしても、相手が眠っていないと何も出来ないですよね?」


「うぐぐぐ…」


「正直、使い勝手の悪さではレプス以上ですね」


ふらり、とムースは近くの椅子に倒れた。


フェレスの言葉が余程ショックだったのか、虚ろな目でぶつぶつと呟いている。


今まで信奉者達にちやほやされていた為か、メンタルが弱いようだ。


「フェレス…アンタって、意外と毒舌家なの?」


「いやいや、夢の中でぶっ刺されたことなんて気にしてませんよ。ええ、全く」


「ああ、そのこと根に持ってた訳ね」


普段から何考えているか分からないフェレスの、意外と子供っぽい所を見たレプスだった。


呆れたようにため息をつき、レプスは椅子から立ち上がる。


「ムースが五人目、私が六人目…それにフェレスが七人目だとすると、まだ三人いる筈なのよね」


既に亡くなった一人目を除き『二人目』『三人目』『四人目』


その三人のアニマ寄生者は騎士団に確認された後、長らく行方を晦ませている。


騎士団すらも行方が掴めない彼らを見つけるのは難しそうだ。


だが、見つけて尚且つ味方に付けることが出来れば騎士団に対抗することが出来るかもしれない。


「…その番号って騎士団に確認された順番でしたよね?」


「え? そうよ。二年前に確認された私で六人目」


「…へえ、つまり僕は『未だ騎士団に確認されていないから』七人目なんですね」


含みのある言い方でフェレスは薄ら笑みを浮かべた。


その言葉が少し気になったが、今までの経験上答えないと分かった為にレプスは尋ねなかった。








同じ頃、アルブス地方、


聖堂の一室に多くの騎士が押しかけていた。


「ルーベル地方が壊滅的な被害を受けたと報告が上がっています!」


「ニゲル地方では例の教団が不審な動きを見せたと!」


次々と上がる報告の声、


段々と積み上がっていく報告書の山、


それを見て、その女はため息をついた。


妖艶な雰囲気を持つ女だった。


黄色を基調とした舞台衣装に身を包んでいるが、その露出度の高い服で一層に男を魅了していた。


しかし、肝心の顔だけは狐を模した仮面を被り、隠されていた。


「大声でガミガミとうるさいわよぉ。男なら落ち着いた余裕を持ちなさいよね」


砂糖菓子のような甘ったるい声で女は言った。


騎士団長が座る椅子に分不相応に腰かけ、報告書で紙飛行機を折っている。


「で、ですが…ウルペース様!」


「んー?」


ウルペース、と呼ばれた女は騎士の言葉に曖昧な返事をする。


そもそも、まともに取り合うつもりがないのかもしれない。


本来騎士団長が座る椅子に、この黄色の女が座っているのには理由があった。


「…騎士団長はまだ地下から戻らないのか」


「全くどうして、こんな馬鹿女に後を任せたんだ」


ウルペースに聞こえないように騎士達は呟く。


騎士団長直々に代理へ選ばれた人物に不満を零す。


「大体、アイツだって例の異端者の一人じゃねえか…化物め」


一人の騎士が敵意を込めて狐面を睨みつけた時、突然ウルペースは立ち上がった。


思わず、びくっと背筋を伸ばす騎士には目も向けずに一枚の報告書を取った。


「カエルレウス地方で異常気象発生?…季節外れの大雪ねぇ」


クスクス、と笑いながらウルペースは沈黙した騎士達の方を向いた。


知りたかった情報はこれだけだ。


目標の居場所が分かったなら、あとは向かうだけ。


「騎士団長代理が命令よぉ。カエルレウス地方へ向かうように」


「は? どういう意味で…」


「私は一足先に向かっているわぁ。あんまり待たせたら駄目よ」


言葉と共に、ウルペースは団長室のカーテンを開けた。


強い日光に騎士達が一瞬目を閉じる。


入ってきた風で窓が開いていたことに気付いた時には、既にウルペースの姿はどこにもなかった。

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