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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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十一人目


天も地も何もない灰色の空間、


雲のようなニット帽に空色コートの少女は無表情でこちらを見つめていた。


「…ああ、またこの夢か」


青い少女の前に立つムースは、眉を歪めて呟く。


これは夢だ。


しかもこれは他人の夢ではない。


この退屈な灰色空間はムース自身の夢。


「お前は誰だ?」


苛立ちを含んだ声でムースは言う。


それに青い少女はクスクスと笑った。


「誰? 嫌だな、最近現実で会ったばかりでしょ?」


「違う。信奉者を使って招いた奴はお前とは別人だった…」


以前これと同じ夢を見た後、すぐにレプスを聖域へ招いた。


しかし、夢で出会ったレプスは明らかに目の前の少女とは別人だった。


なら、この笑っている少女は誰だ?


「何故俺の夢に侵入できる。答えろ」


青い少女は冷笑を浮かべる。


その態度にムースが口を開こうとした時、


何の前触れもなく、青い少女の腹部が大きく裂けた。


「は?」


突然のことに呆然とするムース。


巨大な口のように開いた傷からは血が一滴も零れない。


内部には暗い闇が広がっている。


「ッ!」


暗い闇の中で、何かが光っていた。


鈍く光る金色が二つ。


瞳孔が細い金色の目がこちらを見つめていた。








「ハッ…!」


目を覚ましたムースが初めに目にしたのは、真っ白な天井だった。


白い壁、白いテーブル、白い猫の人形、


悪趣味なぐらい白で統一された内装を見てる内にムースの頭も段々と覚醒してきた。


モルス教団の神として君臨していたムースは、似たような能力を持った二人に倒された。


その結果、信奉者達からムースの記憶を消され、ムースは神の立場を失った。


ニゲルを支配していた事実が失われた訳ではないが、少なくともニゲルの人々は神を求めなくなった。


そして、居場所を失ったムースは取り敢えず、二人に西方の田舎まで連れて来られたのだった。


「…何だって、俺がこんな所に」


神だった少年は人形で溢れた部屋を見て呟く。


別に神の立場が惜しい訳ではない。


嫌な思い出しかないニゲルを離れることも躊躇いはなかった。


だが、教団の神から田舎の居候は、生活が百八十度変わったなんてレベルじゃなかった。


まるで引っ越し先に馴染めない子供のようにムースは戸惑っていたのだ。


ムースは運動不足な足を使って、立ち上がる。


新天地の不安を癒すように、周囲には猫の人形が乱雑に置かれていた。


「あの野郎、どう考えても俺を子供扱いしてやがる」


薄ら笑みが得意な猫目を思い浮かべ、ムースは眉を歪める。


人の悩みを見抜き、問答無用で解決して見せた。


それは純粋な善意から…と思う程、お気楽な人生をムースは送っていない。


恐らく、アニマ関連だろう。


能力か情報か、何か連中にとって必要な物をムースは持っていたのだ。


そこまで考え、ムースは部屋のドアを見つめる。


その向こうにいる二人の異能者を見据える。


腐っても教団を築いたトップ。


交渉や駆け引きは得意な方だ。


さあ、二人の居場所へ赴こう…


そう大きく一歩出した足は、床に転がっていた人形を踏み締めた。


「おわぁ!?」


足を滑らせ、ムースの視界は再び天井を見据える。


ふわっ、と浮遊感を覚えたのも束の間、


そのままムースは後頭部を強く打ち付けた。


「~~~~~ッ!」


言葉にならない悲鳴を上げ、その理不尽な痛みに耐える。


やり場のない怒りをぶつける先を探し、間抜けな顔で笑った人形を睨みつけた。


理不尽をぶつける先はお前に決まった。


「ああー! 大体、こんな所に人形置いておく奴が悪いんだよ! 頭打ってまた夢の世界に旅立つ所だっただろうがよ!」


怒りに任せて人形を蹴り飛ばすムース。


しかし、人形は足の踏み場もない程に乱雑に置かれており、根本的な解決にならない。


「猫の人形がお気に入りなら、きちんと片づけておけっての!」


目に付いた全ての人形を回収し、抱え込む。


割と結構な数があった為、ムースのか細い腕には辛い。


一旦、近くに置いた後でクローゼットの前に立つ。


何故、小屋にこんな物まであるのかは考えないで開いた。


瞬間、クローゼットの中より更に大量の人形が溢れ出た。


その数は、百以上で小柄なムースをすっぽりと覆い隠してしまう程だった。


「ふ、ふふ…ここまでコケにされたのは初めてだ」


猫の人形を頭に乗せながら、ムースは笑う。


「いい度胸だ、この野郎。このムースは整理整頓の神でもあると言うことを教えてやる!」








「…何やってるの?」


扉を開けたレプスが目撃したのは、テキパキと片付けと掃除に励む神の姿だった。

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