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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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十人目


灰色一面の広い部屋。


夢の空間より帰還した二人は、豪華な椅子に座る人物へ目を向ける。


視線の先には五年ぶりの光に目を細めるムースがいた。


継ぎ接ぎ服にチーズ型の王冠と服装はまるで変わっていないが、夢で見た時よりも小さく見える。


年齢はレプスよりも下に見え、とても神として君臨していたようには見えなかった。


「五年ぶりの生身はどんな気分ですか?」


「…ああ、喉と目に違和感を感じる。運動不足ってレベルじゃねえからな」


身体の調子を確かめながらムースは言った。


五年も眠り続けていたのだ、身体が本調子でないことも当然。


夢で見せた能力が使えないことも相俟って、今のムースは酷く弱い存在に見えた。


「俺を起こしてどうする気だ。見逃す代わりに夢でも叶えてやろうか?」


「要らないわ。そんなことよりニゲルを解放しなさい」


冗談交じりのムースの言葉にレプスは即答した。


他にも色々と言うことはあるが、まずはそれからだろう。


「悪夢からの解放って意味なら、ソムニウムを壊した時点で全ての人間は目を覚ましている筈だ」


ムースが五年間運営し続けてきたソムニウム。


それはニゲルの住人の夢に侵入し、悪夢を見せ続けてきた。


しかし、ムースが目を覚ましたことでソムニウムは崩壊。


覚めない悪夢に苦しんでいた住人達もいずれ目を覚ます。


「だが、ニゲルは夢から解放されないぜ」


「アンタ、まだ神様気取りに未練があるの!」


「違えよ。俺が単なる人間に戻ることを奴らが許すのかって話だ」


不快そうに眉を歪めて、ムースは部屋の外を眺めた。


この聖域の一室の外にも、ムースの夢を求める信奉者達が揃っている。


階級制度を作り、夢と言う餌を与え続けた結果、ニゲルは夢に依存しているのだ。


幾度恐怖を与えられようと、神を求め続けている。


まさに狂信者。


「馬鹿みてえだろ。五年も恐怖政治されていて、それでもまだ救いが欲しいんだとよ」


人の欲を見続けてきた少年は、ため息をつく。


たった十数年しか生きていないのに、もう人生にうんざりしているとでも言いたげに。


「神の座に未練はないんですか?」


「ない。そもそも神様扱いがウザったくて五年も引きこもってた訳だしな」


どこかで聞き耳を立てている信奉者に聞こえるようにムースは言う。


どうすれば、この悲劇は終わるのだろうか。


どうすれば、ニゲルの人々は前を向いて生きていけるのだろうか。


レプスには何も考えが浮かばなかった。


「彼らは君が死ぬまで追いかけ続けるでしょう」


「だろうな」


「だから、死んで下さい」


トン、と人差し指をムースの額に当て、フェレスは言った。


レプスは慌てて、フェレスに駆け寄る。


「ちょ、ちょっと!? 何も殺さなくても…!」


フェレスの指先が淡く光り出す。


それを見ても、ムースは何の反応も示さなかった。


ただぼんやりとその光を見つめている。


止めようとしていたレプスさえも、言葉を失った時、


フェレスは口を開く。


「『ヴァニタス』…ニゲル全ての人間の心から、君は消える」


いつもの薄ら笑みを浮かべて、フェレスは言った。








同じ頃、帝国の東方『ルーベル地方』


温暖な気候で沢山の人が住むこの場所で、異変が起こっていた。


原型すら保っていない残骸、


無傷のままで死んでいる変死体、


異様としか表現できない状況。


十年前の大火災を連想させる災厄だった。


「……ッ」


鳥の声すら聞こえなくなった村の中、


瓦礫に身を隠し、一人の少女が生き残っていた。


息を止め、涙を流しながら震える。


(どうして、どうして…?)


少女は考え続ける。


どうして、こんなことになってしまったのだろうか。


今までは平穏な毎日だった。


悲劇は何の前触れもなく現れ、少女の全てを奪い去った。


突然の理不尽に嘆くが、悲劇は終わらない。


恐怖を抑えながら祈る少女の前に…『それ』はひっそりと現れた。


それは、お伽噺に出るような怪物だった。


瞳孔が細い金色の目を付け、


血のように赤い身体を持ち、


大人も丸呑み出来そうな口を開いていた。


それは、蛇に似ていた。


「ヒッ…!」


恐怖のあまり、声が出ない。


蛇に睨まれた蛙のように、身動きが出来ない。


現実から目を逸らすように再び目を閉じようとした時には、


もう、怪物は目の前に迫っていた。

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