第6話 瑠璃ちゃんを磨いて宝石にしよう会議
「それでは、第一回瑠璃ちゃんを磨いて宝石にしよう会議を始めます!」
白銀の言葉に俺が拍手する。隣にいた瑠璃はおろおろしていたが、空気を察して小さく手を叩いた。
顔合わせの翌日――
昼休みになり、俺達は再び中庭に集まった。そこで待っていたのはハイテンションな白銀だった。
ちなみに昨夜の瑠璃は俺の部屋に来襲し、そこそこ暴れていた。
白銀を連れてきたことが相当ビックリしたらしい。それであれこれ言われたのだが、怒ってはいなかったので良しとしよう。
「始めるのはいいが、この会議は何をするんだ?」
質問すると、白銀は笑顔のまま頷いた。
「その名の通り、今後の予定について話し合うんだよ。単なる話し合いじゃ味気ないし、可愛い名前を付けてみた」
会議に可愛い名前が必要なのか不明だが、まあいいだろう。
「一日考えてきたんだ。まず、瑠璃ちゃんお披露目をいつにするか考えよう」
「……お披露目?」
「そっ。可愛くなった瑠璃ちゃんをお披露目する日のこと。これから瑠璃ちゃんを可愛く磨いちゃうわけだけど、すぐに完了するわけじゃない。容姿の改造だけなら数日で終わるけど、今回の場合はそれだけじゃないからね」
そう、簡単な話ではないのだ。
容姿だけでなく性格を変化させる。少なくとも数か月は必要のはずだ。まあ、それでも完成品には程遠いだろうが。
「理由はわかったけど、今から決めるのは早くないか?」
「お披露目の日を決めるのは重要よ。最初に決めておくことで目標意識を高めることができるし、何よりお披露目する日を決めちゃえば逃げられないから」
白銀は更に続ける。
「お披露目で大きな注目を集めたいの。インパクトが大きいほど人に注目されるし、騒がれることになる。知名度を上げないと投票に繋がらないからね。知名度を上げればそれだけ生徒達からの投票に期待できる」
「……なるほど」
話を聞いて納得した。それは確かに重要そうだ。
外見が変化すれば嫌でも目立つ。どうせ目立つのなら派手にインパクトを残して話題になったほうが後々役に立つわけだ。
「個人的には夏休み明けが一番良いタイミングかなって思ってる」
「……理由を聞いていいか?」
「長期休み明けだからだよ。地味な女の子が夏休みを境に誰もが注目する美少女に変化する。インパクトあるでしょ?」
今の瑠璃は地味子の代表みたいな存在だ。クラスメイト達は瑠璃のことをあまり覚えていないだろう。
誰も覚えていないような地味子が夏休みをきっかけに垢抜ける。定番だが、インパクトは大きいだろう。
「ひと夏の変化ってわけか」
「そういうこと」
何かを想像させるには十分だな。
ただ、俺はどうしても悪いイメージがある。
何故なら中学時代に唯一ともいえる女友達がそれをしたからだ。そして、俺はそいつに対して非常に悪い印象を持った。
「夏休み明けに大きな変化って、イメージ悪くないか。夏休み明けに地味な子が激変するとか男の影響を受けたって印象になると思うのだが」
指摘すると、白銀は待ってましたとばかりに笑った。
「良いところに気付いたね。そこで私が登場するの」
「登場って?」
「多くの人が夏休みに何があったか多くの人が聞きに来るでしょ。私が瑠璃ちゃんのクラスに登場することで状況が一変する。瑠璃ちゃんのクラスメイトには私の口から説明してあげるの」
ほう、なるほど。
「……し、白銀先輩が直接ですか?」
さすがに驚いた様子で瑠璃が口を開いた。
「私が裏で瑠璃ちゃんを美少女に改造してましたって紹介してあげるの。仲良しの後輩的な感じで。これなら私の影響で変わったって思うでしょ?」
ひと夏の変化ではあるが、関わったのが女性なら悪い想像はしない。
むしろ可愛くなった理由にも納得するだろう。男の影響では変化したわけじゃなく、宝石姫が原石を磨いたと思わせるわけか。
名案だな。
「しかし、知り合った理由とか聞かれないか?」
「理由は何でもいいわ。たまたま出会って仲良くなったとか、実は前からの知り合いだったとか、その辺はどうにでもなる」
「まあ、そうだな」
「私が登場したことで注目度は更にアップする。磨かれた容姿と私の登場で瑠璃ちゃんは一躍人気者になれるわ」
外見が大きくチェンジし、そこに宝石姫が親し気に接触するか。
注目度抜群だな。
「私に出来るのはここまで」
後は瑠璃が集まって来た生徒達を華麗に捌いたり、白銀と楽しそうに談笑する姿でも見せればあっという間に時の人というわけだ。
インパクトを与えるには十分すぎるな。
「計画は理解したよ」
「これでいい?」
「十分だ。夏まで協力してくれるのはありがたい」
特に反対するところもないし、瑠璃のことをしっかり考えてくれている。白銀の方針で問題なさそうだ。
お披露目の日を最初から決めておけば逃げられないし、当日わざわざ白銀が来てくれるのも大きい。これは成功間違いなしだ。
「じゃ、Xデーは夏休み明け初日ってことで」
「おう」
ちらっと瑠璃を見ると、小さく頷いた。
これでお披露目の日は決定した。
「ここからは具体的な改造案ね。外見の改造については夏休みでいいと思う。大きく変化させるのが大事だから、一学期の間は今のままで過ごしてもらうことになるわ。そっちの方が驚かせられるはずだからね」
「……インパクトを残すならそれが一番だな」
中途半端に改造中の姿を見せるのは良くない。
「だから、一学期の間は内面の強化を頑張りましょう」
一番の問題点だ。
「今は五月だが、間に合うのか?」
「性格は急に変えられないけど、多分大丈夫でしょ」
「……すごい自信だな」
「最初からシチュエーションを想定しておくのが重要かな。お披露目が終わったら間違いなく多くの人が詰め寄る。それを上手く捌くことが何よりも重要だから、その場面を想定して今から頑張りましょう。そこでしっかり対応すれば、無口とか暗いって印象は消せるはずだから」
具体的な状況をイメージするというわけだ。
実際、瑠璃が顔を晒せば囲まれるだろう。クラスメイト達が瑠璃の席の周りを囲む場面を想像するだけでワクワクするね。
「瑠璃ちゃんはどうかな?」
「は、はい!」
「これでいい?」
「いいです。が、頑張ります!」
瑠璃もやる気のようだ。
そこからしばし話し合いを続けた。
この「瑠璃ちゃんを磨いて宝石にしよう会議」は毎月設けられることになり、都度方針の確認だったり、成果の確認だったりをすることになった。
会議が終わって隣を向くと、瑠璃と目が合った。
その瞳は決意に満ちていた。
順調だ。あまりにも順調だ。このままなら瑠璃を表舞台に立たせるという俺の夢は思ったよりも簡単に叶えられてしまいそうだ。
……
…………
この時は完璧だと思っていたのだ。
しかし、すべてが甘かった。
想像していたよりもずっと瑠璃はポンコツだった。想像していたよりもずっと時間は短かった。想像していたよりもずっと事態は面倒かつ複雑になっていった。
まさか第二回の「瑠璃ちゃんを磨いて宝石にしよう会議」の参加人数が倍になっているなど、この時は想像していなかった――




