第4話 オパールと原石
昼休み。
俺と白銀は中庭にあるベンチに座っていた。
普段なら誰も俺のなど見ないが、宝石姫である白銀が隣にいれば別だ。あちこちから視線を浴びる。
悪意のある視線に感じるのは気のせいではないだろう。
「本当に良かったのか。いつもは友達と昼食だろ?」
「夢原君との大事な取引だからね」
「……別に放課後でも良かったのに」
「むしろ放課後がダメかな」
なるほど、友達と遊ぶからか。
「それに、一緒にお弁当を食べると普通に話をするよりも早く仲良くなれるからね。好きなおかずの話題だったり、得意な料理だったり、そういうのは会話のネタになるから。きっかけとしてはやりやすいんだよ」
白銀はお弁当を片手に言った。
一理ある。
会話の苦手な瑠璃としてもきっかけがあった方がやりやすいだろう。そこに気付ける白銀はやはりコミュ力が相当高いな。
「まあ、夢原君が自慢する妹を早く見たいっていうのが一番の理由だけど」
「期待してくれていいぞ。贔屓目なしでも素材はピカイチだからな」
「ホントに自信満々だね」
自信満々に決まっている。
こうして間近で見る白銀は間違いなく美少女だが、瑠璃も決して負けていない。それを再確認できた。
「でも、どうして中庭なの?」
「静かに食べられるからだ。だからいつも妹と一緒に食べてる。大半の生徒は教室で食うだろ。学食に行く奴も多いし、意外と中庭に来る生徒は少ないんだ」
「いつも妹さんと一緒に食べてるの?」
「まあな」
「うらや……ホントに仲良しだね」
何か言いかけたな。
まあいい。一緒に食べるのは瑠璃に友達がいないからだ。妹にボッチ飯をさせるわけにはいかない。
俺の行動で更にボッチが加速する?
残念ながら瑠璃の社交性のなさは誰よりも知っている。あいつが家族以外と一緒に食事など考えられないし、他人と会話が弾むビジョンは想像できない。
「私も妹と仲良しだけど、さすがにそこまで仲良くないよ」
「そういえば、白銀も妹がいたんだっけ?」
何気なく尋ねると、白銀は信じられないという表情を浮かべた。
「……夢原君って女の子に興味なさすぎじゃない?」
「別にそうでもないぞ。俺だって女子に興味はあるし」
「なら、彼女とかいるの?」
「いない」
彼女いない歴は年齢だ。
「好きな子とかは?」
「すぐそういう話に発展するのは宝石姫といっても普通の女子だな」
「恋バナは誰でも好きでしょ。ましてや相手は去年から謎に包まれた男子だよ。こういう機会に聞いておかないと」
勝手に謎に包まないでくれ。
などと他愛のない話をしていたら、向こうから瑠璃が歩いてきた。
俺の姿を見つけると小走りになったが、隣にいる白銀を見て固まった。それから恐る恐るという感じで近づいてきた。
「えっと、お兄ちゃん?」
「おう」
瑠璃はゆっくりと白銀のほうを向く。
「初めまして!」
「……」
瑠璃は目を瞬いた。何も言っていなかったのに白銀が一緒にいたのだ。そりゃ驚くに決まっている。
ちなみにスマホで連絡とかはしていない。サプライズしたかったからだ。
「夢原君のクラスメイトの白銀虹海だよ」
「あ、あの……えっと」
予想通り、瑠璃はうろたえて俺にSOSの視線を送る。
「紹介するよ。妹の夢原瑠璃だ」
「瑠璃ちゃんか。いい名前だね」
「……」
「すまない、ちょっと妹に状況を説明してくる」
断ってからその場を離れる。
完全に白銀の姿が見えなくなったところで瑠璃は表情を変化させ、勢いよく俺の体を揺らした。
「ど、どういうことなの!?」
「言ってなくて悪かったよ」
「ビックリだよ。っていうか、あれって宝石姫の白銀先輩だよね。オーラ凄かったんだけど。っていうか、全然予定と違うんだけど!」
「――落ち着けっ」
狼狽する瑠璃の肩を掴む。
「例の計画に白銀が協力してくれるかもしれない」
「け、計画に協力?」
「ほら、例の瑠璃を磨く計画だ。実はあの計画は信用できる相手に瑠璃を任せるってものだったんだ。俺だけだと頑張っても無理があるからな。流行とかオシャレみたいな女子力を磨けるのは女子だけだ。それに、白銀のコミュ力は学園内でもトップクラス。瑠璃の残念すぎるコミュ力を磨くには最高の相手だぞ」
瑠璃の目がぐるぐる回る。
「えっ……ちょっと待って。本気なの? 相手は宝石姫だよ?」
そう言った後でさらに続ける。
「というか、どうして私なんかに協力を?」
「興味あるってさ」
「えっ!?」
「宝石姫に興味を持たれるとは、さすがは瑠璃だな!」
「……これは想定外だよ」
震える瑠璃だが、そりゃまあ想定外だろう。
まさか宝石姫が登場するなど全然想像していなかったはずだ。俺自身もこんな状況になると予想していなかったからな。
「瑠璃に一番足りてないのは友達を作ったり、会話したりするコミュ力だ。その能力が高い白銀は先生として一番だ」
「それは……というか、お兄ちゃんって白銀先輩と知り合いなの?」
「去年からのクラスメイトだ」
そういえば言っていなかったな。
瑠璃は「クラスメイト?」だの「想定外だよ」とか「まさかの展開」などとつぶやいて混乱していた。
「気持ちはわかるけど、白銀が引き受けるかもまだわかってない。瑠璃と会いたいって言ったから連れて来たんだ」
「う、うん」
「待たせるのも悪いし、ひとまず戻ろう」
あまり待たせるのは悪いので戻ることにした。
「悪いな」
「別にいいよ。それよりさ――」
立ち上がった白銀が瑠璃に近づいた。
不意に目の前に立たれたことで驚いたのか、瑠璃はカチンコチンに固まってその場で震えた。
「ゴメンね、ちょっと確認させて」
白銀は真っすぐに瑠璃を見つめた。
その後、もっと近づいてメガネを外した。その時に「わっ」と驚いた様子の声を出した。顔を確認してからはスタイルを測るように少し触ったりしていた。白銀の表情は至って真剣だった。
確認が終わった後でスマホを出すと、公式アプリを起動した。恐らく瑠璃の順位を確認したのだろう。
「ふむふむ、なるほどね」
「……」
確認した後、俺に顔を向ける。
「夢原君が自慢するのも納得した。確かに瑠璃ちゃんは宝石の原石だね。しっかりと磨けとっても可愛くなる。というか、今のままでも普通にめちゃくちゃ可愛いね。これで順位が2078位とか考えられないよ」
「白銀もそう思うだろ!?」
「お世辞でも何でもなく、本当に逸材だと思う」
正当な評価に俺のテンションも上がる。
白銀が手を離すと、瑠璃は慌てて自分の顔を隠した。あっという間に地味な少女が出現する。
「……勿体ないね。この子が埋もれているのは人類にとって大きな損失かも。普通にアイドルでも通用するよ」
「わかる!」
これは大きい。
俺だけの評価なら妄想とか兄贔屓と言われるが、白銀からお墨付きを得た。
「夢原君。さっきはまだ答えを保留してたけど、私も協力するね」
「いいのか?」
「瑠璃ちゃんの今後が楽しみだから。というわけで、詳しい話を聞かせてくれるかな。ランキングを上げるって話だけど、最終目標を知りたいよ」
それは当然聞くところだろう。
ただ、最終目標について話すのなら事情を話す必要がある。
「白銀に事情を話していいか?」
「う、うん」
許可をもらったので隠さず事情を話す。
「実は――」
白銀は話を聞き、納得した様子だ。途中から好意的な目で瑠璃を見ていた。恋愛関係の事情だと理解してテンションが上がったのだろう。さっきの話からして、白銀は恋愛関係の話が好物らしい。
「憧れの相手に近づくために自分を磨きたい。動機も素敵だね!」
「……うむ」
「わかった。宝石を目指すのは他の要素もあるから簡単には無理かもだけど、私に出来ることなら全力で協力するよ」
「ありがたい」
決まりかけていた空気の中――
「ちょ、ちょっと待って!」
珍しく瑠璃が慌てた様子で声を張り上げ、俺の顔を見た。
「どうした?」
「……その、白銀先輩はファンも多いでしょ。一緒にいたら私も見られちゃう。注目されるのはあんまり好きじゃないから」
懸念はもっともだ。
ランキングを上げれば嫌でも目立つことになるが、こういう形で目立つのは本意ではないのだろう。
まあ、そもそも瑠璃の最終目標は自信をつけての告白なわけだし。
「じゃあさ、放課後とか昼休みにたまに会うって感じでどうかな?」
「えっ――」
「私も協力するとは言ったけど、自分のこともあるから毎日付き合うとかは無理だから。たまに会ったりして瑠璃ちゃんの自分磨きに協力する。電話とかメッセージでアドバイスも出来るでしょ。そういう感じならどうかな?」
名案だ。
そもそも瑠璃を磨くのには時間が掛かるし、長時間の拘束とか白銀の妹に男子生徒を紹介する程度ではつり合いが取れない。
「え、えっと……はい」
提案に瑠璃は消え入りそうな声で答えた。
「じゃあ、今後のことはお弁当食べながら相談しよっか」
宝石姫である白銀虹海の協力を取り付けた。
その結果に俺は大満足だったが、瑠璃は何故か浮かない顔をしていた。




