第3話 オパールの宝石姫
至宝学園ランキング第8位・白銀虹海。
彼女こそ至宝学園の頂点である宝石の称号を持つ少女であり、幸運や希望のシンボルとされる【オパール】の宝石姫だ。
宝石の称号を持つ生徒は女子なら「宝石姫」と呼ばれ、男子の場合は「宝石彦」と呼ばれる。
「あっ、急に話しかけちゃってゴメンね」
「全然問題ない。というか、俺の方こそ申し訳ない。口から声が出ないように注意していたんだけど」
「別にいいよ。独り言といっても、近づかないと聞こえないくらいだったから」
白銀虹海は柔和な笑みを浮かべる。
彼女のことを一言で説明すると、瑠璃と正反対だ。
何でもこなすことができる万能タイプであり、コミュニケーション能力の塊でもある。彼女のランキングを押し上げている大きな要因は生徒からの投票だ。正直、人気だけならもっと上の順位でも全然おかしくない。
誰とでも打ち解けられるコミュニケーションの高さは有名で、学園で最も友達が多い生徒と言われている。
誰とでも打ち解け、楽しそうに話す姿は見る角度によって虹色に輝く遊色効果を持つ宝石――オパールそのものだ。
外見も可愛い。
正統派美少女という言葉がぴったりだ。整った顔立ちだが、若干の幼さが残る。ミディアムボブの髪型がそこはかとない王道感を醸し出している。
「でも、ビックリしちゃった」
「ビックリ?」
「だって夢原君ってあんまり口開かないでしょ。去年も同じクラスだったけど、話すことなかったから」
「……」
俺にとって白銀は他人以上、友人未満という関係だったりする。
白銀とは去年からのクラスメイトだ。マンモス校であるこの学園において連続して同じクラスになるのは珍しい。至宝学園のクラスは成績順で上のクラスから振り分けられる。そういう理由で今年も一緒のクラスになった。
「それで、何か悩みでもあるの?」
「……妹のことでちょっとな」
「夢原君って妹いたんだ」
「今年からここに通ってる」
「へぇ、初耳だな」
白銀は興味があるらしく、俺の正面に立った。
「聞かせてくれるかな?」
「えっ――」
「何か悩んでたんだよね。夢原君だけじゃ解決できないみたいだし、内容を教えてくれるかな。私にも妹がいるから力になれるかもだよ?」
意外だった。白銀とは挨拶をする程度で、こうして真っ向から会話するのは初めてのことだ。
どうする?
辺りの様子を伺うと、多くのクラスメイトがこっちを見ていた。
学園の代表でもある宝石姫の白銀は当然ながらこのクラスの中心的存在でもある。会話をしていたら注目されるのは当然だ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
視線に全然動じてない。
俺みたいな小心者はクラスメイトから見られていると震えてしまいそうになるが、白銀は平然としていた。そのメンタルからしてすでに只者ではない。
しかしどうするよ。白銀に瑠璃のことを話しても――
いや、ちょっと待て。
白銀はめちゃくちゃハイレベルの女子だ。それに、他の宝石姫と比べてもコミュ力がずば抜けて高い。
また、友達と喋っているところを聞いた話だが、お菓子作りが得意だという。私服もオシャレで、流行にも敏感だとか。
つまり女子力の塊だ。もし、白銀に磨かれたら瑠璃も輝くに違いない。
「ケンカでもしちゃった?」
「いや、してないぞ。仲良し兄妹だからな」
「仲良しって……珍しいね」
高校生の兄妹といったら普通はケンカばかりだろう。
「よく言われる。でも、ずっと仲良しだ。ケンカした経験もない」
「それは素敵だね」
「俺はともかく、妹の性格が良いからケンカにならないんだ。それに顔だって良いし、すべてにおいて完璧だぞ」
「……自慢の妹ってわけだ」
そう言った白銀は意味深な表情を浮かべた。
何だ?
一瞬だったので気のせいかもしれない。
「で、ケンカじゃないなら何を悩んでたの?」
言っていいのか?
瑠璃の恥な部分を広めることはしたくないが、俺だけじゃ磨くことができない。手伝ってくれる相手が必要だ。
さすがに白銀本人は無理かもしれないが、彼女なら言い触らさないだろうし、瑠璃を磨くのに最適な相手を教えてくれるかもしれない。その人脈は俺とは大違いだろうし。
「……妹を磨きたいんだ」
「どういう意味?」
「変なことを言うようだが、俺の妹は可愛い。めちゃくちゃ可愛いけど、まだまだ素材の状態だ。しかし、少し手を加えただけで宝石のように光り輝く。それは間違いない。宝石ってよりは天使に近いけど。そもそも瑠璃は――」
調子に乗って話していると「ちょっと待って」と白銀が制止した。
「何だ?」
「ビックリしちゃって。夢原君ってあんまり主張しないタイプだと思ったけど、妹さんのことになったら凄い勢いで喋るんだなって」
しまった。うっかり熱く語ってしまった。
「……悪かったな」
「別にいいよ。それで、妹さんを磨きたいの?」
「そうだ。今のところ素材がいいだけなんだ。性格的にも控えめというか、あまり目立とうとしない。だから地味っていうか、暗い印象に見られることが多くてな」
説明を聞いた白銀は納得の色を見せた。
「私の友達にも似たような子がいるよ。可愛いのに、必要以上に何もしないんだよね。髪型変えたり、服を整えたりすれば絶対可愛くなるのに。勿体ないよね」
白銀の知り合いにも似たようなタイプがいるらしい。
「ってことは、夢原君は妹さんにお節介したいわけだ」
「無理強いしたいわけじゃない。事実、今までは歯痒い気持ちを抱えながら何もしなかった」
「ほうほう、というと?」
「妹が変わりたいと言ってきたんだ。それで、どうにかして力になりたいと思った。ただ、男の俺だと限界があって」
話を聞いた白銀は何かを考えた素振りを見せた後で頷いた。
「じゃあさ、私が協力してあげる」
「えっ」
それは、思ってもみない提案だった。
「妹さんを可愛くしたいんだよね?」
「ま、まあな」
「だったら手伝ってあげるよ」
「白銀が? いいのか?」
「夢原君が自慢する妹さんを見てみたくなったんだ。それに、私って結構可愛い子を発掘するのが好きなんだよね」
白銀の趣味は知らなかったが、ありがたい提案だ。
「ただ、代わりに条件があるんだ」
「……条件?」
「実は、私も妹からお願いされてるんだよね。ある男子生徒と仲良くなりたいんだって。夢原君ならそれが出来るみたいで、どうにかしてお願いしようと思ってたんだ。夢原君に近づいたのもそれが狙いだったんだ」
それで俺の独り言が聞こえるところまで近づいてきたわけか。
ある男子生徒が誰なのか大体想像はつく。
親友を売ることになるかもしれない。あいつには悪いことをする。でも、俺にとって最優先は瑠璃だ。
「是非ともお願いしたい!」
「即答!?」
「それくらい妹が大事だからな」
「……わかった。なら、一度妹さんに会わせてもらっていいかな?」
「もちろんだ。よろしく頼む」
計画の肝であった職人問題があっさり解消するかもしれない。
こうも順調なのはきっと、瑠璃が天使だからだろう。そう確信して俺は何度も頷いた。




