第2話 至宝学園と宝石
私立至宝学園。
俺と瑠璃が通っているその学校は全国的に有名だ。
理由はいくつかある。
まずはマンモス校という点が挙げられる。併設型の中高一貫校で、全校生徒の数は二千人を超える。これは地域でも最大級だ。
生徒数だけでなく校舎も有名だ。高等部の校舎は本館と東館があるのだが、特に本館は初見の人が必ず驚くほど巨大で豪華な造りとなっている。
また、部活動が強いことでも知られている。特にサッカー部はインターハイに出場した経験もある強豪校だ。他にも運動部を中心に強い部活動がちらほらある。
その有名校に通っている俺はといえば、普通の生徒である。
身長も体重も成績も特筆すべき点はないし、顔立ちだって普通だ。ブサメンと引かれたことはないし、逆にイケメンだと騒がれた経験もない。目立つわけでもなければ、誰にも覚えてもらえないほど影が薄いわけでもない。
自分で言うのもアレだが、特徴がない平凡で退屈な生徒だ。
「……想定外の事態になったな。瑠璃が気になる相手についてはいずれ突き止めたいところだが、ひとまずそこは置いておこう。瑠璃がやる気になってくれたことが大事だ。あの計画を実行する時だな」
登校した俺は自分の席で頭を働かせていた。
あの瑠璃が自分から変わりたいと言ってくれた。兄としてはそれだけで喜ばしいが、ここは結果を出したいところだ。
「目標確認だ。まずは瑠璃を磨き上げる。そして、ランキング上位に押し上げる。可能なら宝石の称号を獲得したい」
これが外見を磨くだけなら簡単だった。
髪型を変えて、メガネをコンタクトにするだけでいい。はっきりいって化粧とかオシャレは必要ない。瑠璃の顔立ちは整っているので、顔が見えるようになるだけで大きな注目を集めるはずだ。
しかしだ。
瑠璃は自分の性格の方も変えたいと言った。外見だけでなく内面を磨きたいと。
「一番重要なのはコミュニケーション能力だな。生徒からの票を集めるのは重要だから、そこを磨かないとランキング上位は無理だ。瑠璃は家族以外とまともに喋れない。その点をどうにかしないと」
会話の引き出しが少ないのも問題だ。
瑠璃の趣味はゲームや読書といったインドア中心だ。ホラー映画だったり、麻雀とか将棋だったり、ネトゲだったり、美少女フィギュアの収集だったり、お世辞にも万人受けしない趣味の数々。むしろオッサンが喜びそうな趣味ばかりだ。
おまけに勉強も運動もダメダメだ。
地味なルックス、内気な性格、万人受けしない趣味、勉強も運動もダメダメ、友達は皆無だし、コミュニケーション能力は壊滅的――
ポンコツのフルコースだな。
兄からしたら可愛い妹だが、客観的に見ればこれは結構まずいのではないだろうか。結構どころか、めちゃくちゃまずい気がする。
現状では問題だらけだが、しかし俺には長年温めていた計画がある。
その名も「信用できる女子に預けて磨いてもらう大作戦」である。
この作戦は名前の通り、信頼できる女子生徒に事情を話して瑠璃を磨いてもらうというものだ。
「……」
知恵の限りを尽くした計画が他人任せ?
正直、自分でも少々アレだと思っている。思ってはいるのだが、どう考えてもこれが最も理にかなっているのだ。
そもそも瑠璃には足りない能力が多すぎる。これを補うにはすべてを持っている相手の力を借りるのが手っ取り早い。
俺だって最愛の妹を自分の手で磨きたい
しかし、どう考えても別の人間の協力が必要不可欠なのだ。特にコミュ力を磨くには他人と喋るしかない。だから探さなければならない。磨けば光る原石である瑠璃を、磨き上げてくれる職人を。
「……問題はその相手選びだよな。普通の女子じゃダメだ。磨かれる対象が瑠璃という超一流の素材だから、ランキング上位の女子に頼むのがいいだろう」
スマホを取り出し、至宝学園の公式アプリを起動する。
全国的に有名な至宝学園だが、その最たる理由は生徒数でも部活動の強さでもない。学園独自の制度にある。
ランキング制度。
至宝学園に通う全生徒は学園から順位をつけられる。月末に発表され、学園公式アプリにはトップから最下位まで順位が掲載されている。
この順位は様々な面から決定される。
成績に授業態度、人間関係に部活動での活躍なども影響する。また、体育祭やら文化祭といったイベントでの活躍も反映される。
ただし、学園側が一方的に決めるだけではない。
至宝学園の生徒は公式アプリから投票を行うことができる。優秀な生徒だったり、好ましい生徒だったり、友達だったり、そういった相手に一人三票まで投票が可能だ。
ランキング制度は学園の生徒の質を向上させることを目的として数十年前に導入された。スマホがなかった当時は掲示板に全校生徒の順位が貼られていたらしい。
この制度は大成功だった。
評価されることにより下手な行動は出来なくなり、他人に認められることによって承認欲求が満たされる。結果として多くの生徒が努力するようになり、自然と質が向上していった。
無論、単なる人気投票だと世間からの批判もあった。
学園側は批判されてもこの制度を辞めなかった。いつしか学園の名物となり、多くの生徒がランキング上位を目指して入学してきた。
ランキングの上位に並ぶ名前を眺める。
「最終的な目標は瑠璃を一桁の順位――シングルにすることだ。かなり難しいけど、それでも瑠璃なら可能だと信じている」
全校生徒が二千人を超えるマンモス校でシングルを獲得する実力者、あるいは超人気者には特別な称号が与えられる。
まばゆい光を放つ彼等は「宝石」と呼ばれる。
「とはいえ、さすがに宝石達には頼めないよな」
今後のことを考えて唸っていると。
「……さっきから独り言が聞こえるけど、どうかしたの?」
不意に声を掛けられた。
「白銀?」
声を掛けてきたのはクラスメイトであり、宝石の称号を持つ少女だ。




