第22話 第二回瑠璃ちゃんを磨いて宝石にしよう会議
「それでは、第二回瑠璃ちゃんを磨いて宝石にしよう会議を始めます!」
白銀の言葉に拍手が起こる。
瑠璃はおろおろしていたが、空気を察して小さく手を叩いた。主役なのに控えめなが本当に可愛い。
「……始めるのは構わないのだが、多くないか?」
俺は辺りを見回してそう言った。
時刻は昼休み。いつものように中庭に集まった。この場には俺と弥緑、瑠璃に猫宮、そして白銀と真野がいる。
前回に比べて人数が倍になっている。
この中で俺と瑠璃の参加は当然だ。
それから先生役である三人がいるのも当然だろう。原石である瑠璃を磨く職人であり、お世話になっている相手でもある。
しかし、どう考えても部外者がいた。
「おまえはどうして参加している?」
「……偶然だ」
「偶然?」
「大河に会いにきたら、こうなってる。うろついていたら白銀虹海から参加するように要請された」
なるほど、そういうことか。
恐らく白銀の真野対策だろう。
二人は険悪な関係だし、その緩衝材として弥緑を使おうって腹積もりだろうな。険悪な関係とはいえ、真野を会議に呼ばないわけにはいかないし。
「まっ、ちょうどいいだろ。前にみたいな騒ぎになったら困るからな。騒動が起こりそうになったら止めるのが俺の役目だ」
「大役だな」
「……どっかのアホはすぐに逃げるからな」
酷いアホがいたものだ。おい、こっちを見るな。
そもそも悪いのはケンカする輩だろ。俺は非難の意味を込めて二人を交互に見つめる。
「私は何もしないよ」
「……あたしも」
ホントかよ。
今回は勘弁してくれ。今はまだそれほど注目度は高くないが、騒動を起こせばぐるりと生徒に囲まれることになるからな。
「さて、まずは前回の会議で決まったことのおさらいをしましょう」
白銀は説明を始めた。
半分が前回参加していなかったのでこれは必要だろう。
「この会議は宝石の原石である夢原瑠璃ちゃんの今後の動きを決定する会議です。
具体的には彼女のランキングを押し上げようという会議です。瑠璃ちゃんは生まれ変わります。そして、お披露目するのは夏休み明けになりました」
お披露目するタイミングは前回決まったことだ。
「一ついいか?」
聞き終えた弥緑が挙手する。
「どうぞ」
「どうしてお披露目が夏休み明けなんだ?」
「それは――」
白銀は前回と同じように説明する。
「なるほど、納得した。長期休みを利用して、インパクトを残すか。良い作戦だと思う。白銀が現れて説明するというのも話題になるだろう」
弥緑は納得した様子だ。
猫宮は意見とかせず、隣にいる瑠璃を舌なめずりしながら見ている。会議には参加しているものの、こいつは置物として扱っていいだろう。
「真野はどう感じた?」
俺は隣の真野に声を掛ける。
「……いいと思う。夏休み明けも納得」
自分と重ねているのだろう。過去の真野も同じように夏休み明けだった。あの時も大きな話題になった。
それから会議は進む。
大枠は前回で決めてしまったので特に決めることはなかった。白銀の司会能力が高いのか、話はさくさく進む。
「では、ここで進捗状況を確認しましょう」
白銀はそのまま続けた。
「まずは私からね。コミュニケーション能力を鍛えることになってるけど、経過は順調かな。少なくとも、これだけ人数がいる場にも普通に出れるようになった。間違いなく成長はしていると思う」
そう、元々の瑠璃はこれだけ上級生のいる場で普通にしていることなどできなかった。さっきも全員に挨拶していたので、成長は感じる。
続いて猫宮が口を開く。
「次は僕だね。自分の身を守る術を教えているけど、結構順調かな。教えたことをしっかり吸収しているよ。意外と警戒心が強い子だとわかったし、このまま順調に教えていけば問題ないかな。強引な誘いを断ったり、ナンパを追い払ったり、それくらいのレベルには夏までに出来ると思う」
猫宮の発表に少し驚いた。
しっかり瑠璃のことを見ているようだ。瑠璃が初対面で身構えるのは相手を警戒しているからだ。そういった意味では警戒心だけは強い。
実は俺も猫宮が最も成果を出していると思っている。猫宮のアドバイスで瑠璃は防犯ブザーを持ち歩くようになった。意識は確実に上がっていると思う。
「最後はあたし。といっても、まだ数日だから変化はないかな。頑張ってるから進捗については来月に発表するよ」
最後はぶっきらぼうな感じで真野が告げる。
これは仕方ないだろう。
先生役になってまだ数日だ。これで学力が劇的に変化したら変な薬を使っているとしか思えないからな。
三人が報告を終えた後で、白銀は瑠璃に視線を向けた。
「瑠璃ちゃんからは何かあるかな?」
「特にはないです。が、頑張ります!」
気合いが入っているようで何よりだ。
人数が増えたのでどうかと思ったが、会議は何事もなく進行した。この分なら何事もなく終わるだろう。
「――というわけで、今後はそれぞれの先生が教えていきます。そして、夏休みに瑠璃ちゃんの容姿を改造して終了です。ここが最終目的となるので頑張りましょう」
無事に終わった。
と、思ったら。
「あたしからいいかな」
おもむろに真野が手を上げた。
「……何かな?」
「身構えなくても何もしないって。瑠璃ちゃんのこと」
全員が真野に注目する中で。
「白銀は簡単に容姿を改造って言ったけど、それって簡単じゃないでしょ。容姿の先生はいないみたいだけど、どうするの?」
「どうするって?」
「……? もしかして、ここにいる面々は容姿を改造することが簡単だと思ってるのかな。でも、これが意外と難しいんだよ。そもそも、瑠璃ちゃんが望む姿をあたしは聞いてないんだけど」
俺を含めて全員がハッとした。
言われてみればその通りかもしれない。
正直、俺は今のままの瑠璃でも十分だと感じていた。しかしそれは、あくまでも俺から見た感想でしかない。
地味子からギャルになって真野が言うと説得力が違う。
「大河君は瑠璃ちゃんが望む姿を聞いた?」
「っ」
瑠璃の望む姿――
考えていなかった。今のままで十分可愛いと思っていた。メガネをコンタクトにするだけで十分だろうとか思考を放棄していた。
「普通はあるはずだよ。芸能人の誰々みたいになりたいとか、アイドルグループのあの子みたいになりたいとか、学校の人気者になりたいとか、具体的なイメージが。あたしは瑠璃ちゃんから何も聞いてないけど」
その作業を怠っていた。
具体的にこうなりたい、というイメージが瑠璃にはあるかもしれない。
「えっと、瑠璃ちゃん?」
白銀が訪ねると、瑠璃は小さく頷いた。
「……あります。次回に発表します」
ってことは、なりたい自分は既に存在していた?
俺にとって波乱となる言葉で第二回の会議は幕を閉じた。次回の会議は七月だ。




