第23話 原石が目指す宝石
第二回瑠璃ちゃんを磨いて宝石にしよう会議が終わった。
あの会議は俺にとって衝撃的だった。瑠璃のことを一番に考えていたはずなのに、自分の理想ばかり追い続けていたことを知った。我ながら情けない。
これはいけない。反省だ。
「――話って何かな、お兄ちゃん」
帰宅した俺は部屋に瑠璃を招いた。こちらから招くのは久しぶりのことだ。
「昼の話の続きをしたい」
「……」
「瑠璃が可愛くなりたい理由は聞いた。好みの相手がいて、そいつと釣り合うためだったな」
「う、うん」
「俺は馬鹿だったよ。そいつと釣り合うためにどうなりたいか聞いていなかった。漠然とランキングを上げることを考えていた。瑠璃の外見はずっと整っていたから、髪の毛を切ってコンタクトにするだけでいいと考えていた。しかし、それは瑠璃の意見を全然聞いていなかった。反省していたところだ」
一番最初にするべきことはこれを聞くことだった。
最愛の瑠璃を表舞台に立たせることを考えていたら、肝心の瑠璃がどういう姿で立ちたいのかって点を聞いていなかった。
まぬけな話ではないか。
「というわけで、瑠璃はどうなりたいんだ?」
質問に返ってきたのは笑顔だった。
「じゃあ、お兄ちゃんはどんな人がタイプ?」
「えっ――」
「外見だけの話で聞かせて欲しいな」
「……いや、今は瑠璃の話だろ?」
「私だけ言うのは恥ずかしいから」
なるほど、いきなりなりたい自分を話せと言われても困るか。恥ずかしい気持ちになるのも頷ける。これは納得だ。
俺だってなりたいイケメンを発表するのはちょっと恥ずかしい。芸能人の名前にしろ、知り合いの名前にしろ、あまり言いたいものではない。
こちらも恥ずかしい思いをしなければイーブンではないってわけだな。
「じゃあ、交換条件だ」
「お兄ちゃんの好みのタイプを聞く。そしたら、私は自分のなりたい姿をお兄ちゃんに言う。これでどうかな?」
「いいだろう」
話は纏まったが、正直なところあまり考えたことがなかった。
俺にとって瑠璃を輝かせるのが一番だった。世界で一番好みなのは目の前にいるわけだが、それを言うのは厄介シスコンだからな。
「お兄ちゃんがどんな外見が好きなのか、宝石姫の中で教えて」
「宝石姫限定なのか?」
「芸能人は詳しくないし、他の生徒の名前を出されてもわからないから」
宝石姫くらい有名ならば瑠璃も存在と顔を知っている。理にかなっているな。確かにクラスメイトの名前とか出しても知らないだろうし。
「外見だけだよ。性格は考慮しないでいいからね」
「わかった」
真っ先に思い浮かべるのは三人の先生役。
白銀虹海は正統派の美少女だ。
顔立ちは整っているし、清楚な雰囲気がある。ミディアムボブの髪型は王道感がある。スタイルは標準的で、特筆すべきところはない。
猫宮彩夢は長身でスタイル抜群だ。
顔立ちは白銀に比べると大人びており、ショートヘアの美女だ。特徴はすべてにおいて大きいことだろう。
真野珠理奈は金髪のギャルだ。
髪型はセミロングで、派手な顔立ちをしている。スタイルは白銀と同じで特にこれといったところはない。中肉中背だ。
全員クオリティは高い。
しかし、好みか問われたら違う。
「まず、先生役にはいないな」
「えっ!?」
「……どうした?」
「えっと、真野先輩だと思ってた」
一番ないだろ。
「はっきり言うぞ。俺はギャルが好きじゃない。金髪も嫌いだ」
「……」
瑠璃?
何故か瑠璃は口を半開きにして固まっていた。いつも可愛いが、ビックリのあまり固まる瑠璃は非常にレアだ。
復活したのは数十秒後だった。
「う、嘘じゃないよね?」
「嘘を吐くメリットがない」
「そう……そうだよね」
変な瑠璃だな。
「じゃあ、それ以外の宝石姫?」
「5位の弥緑と7位の先輩は宝石彦だから置いておくとして――」
「そ、それ以外の人は上位勢だね。世界四大宝石」
実は、至宝学園のランキング制度には”壁”が存在する。
それが上位4名だ。
1位から4位までは与えられる宝石の称号が固定なのだ。そして、5位以降の宝石は学園がその人物に似合う宝石の称号を与える。
現在の5位はアレキサンドライトの弥緑だが、去年は別の人が全然違う宝石でこの順位だったりする。
1位 ダイヤモンド
2位 ルビー
3位 サファイア
4位 エメラルド
希少性と価値の高さから世界四大宝石と称されるが、至宝学園でもこの上位4名は別格とされていた。例年は男女入り混じっているが、今は全員が女性だ。
この上位勢は特別である。
というのも、上位4名は学園に対する貢献度が高い人物が選出される。
ランキングは成績に授業態度、人間関係に部活動での活躍などが影響する。しかし、学園を有名にした人物は特別高い評価をされる。
例えば去年の1位はサッカー部のエースだった男子生徒だ。彼こそ、至宝学園をインターハイに導いた絶対的エースだ。部活動での高い貢献が認められ、見事に学園の頂点に立った。現在はプロ選手になっている。
上位勢はそういった”特別な貢献”が認められた生徒である。
「あの姉妹?」
「……」
顔を思い浮かべる。
3位と4位は姉妹だ。
4位である姉の方は現役女子高生配信者として人気を博している。学園からの許可を貰っており、至宝学園の名を広めたとしてランキング上位にいる。
この姉妹において注目なのは3位の妹だ。彼女は特例中の特例で宝石姫となっている中等部の生徒だ。JCミスコンなる中学生のミスコンで優勝し、日本で一番かわいい中学生として芸能界からも注目されている。
まず間違いなく将来の1位候補だ。
「全国王者のルビー先輩?」
「……」
そして、2位は全国選抜高校テニス大会で優勝した人気美少女アスリート。彼女も至宝学園の名を高めた存在である。
「……ダイヤモンド先輩?」
「個人的にはダイアモンドかな」
俺の好み。
誰なのか問われたら多くの生徒同様にダイヤモンドの称号を持つ彼女を選ぶ。
圧倒的な人気とルックスを兼ね備えた元子役にして、現役グラビアアイドルにして、将来は女優になるだろうと噂されている少女――
「じ、実は私もダイヤモンドの金剛先輩が目標だったりします」
「ほう!」
鉄板といえば鉄板だろう。彼女は学園の象徴であり、頂点でもある。
ただ、あのレベルは相当難しい。顔もスタイルも別次元だ。その上で学年でもトップクラスの秀才である。
「……でも、そっか。お兄ちゃんはギャルが嫌いだったんだ
「?」
「な、何でもない。ありがと、参考にするよ」
参考にする?
何のことかわからなかったが、不思議と嫌な予感がした。
……
…………
予感は的中することになった。しかもまるで想像していなかった形で。
月曜日、金髪ギャルとして有名な真野が黒髪にしてきた。それだけでもビックリしたのだが、放課後になってそれすらも吹き飛ぶような大事件が発生した。
「――パイセン、どういうつもりっすか?」
俺は何故か、日本一かわいい女子中学生に絡まれていた。




