第19話 新しい先生
妹の成長が嬉しい今日この頃。
六月に入ったので、改めて今の状況を振り返ってみる。
瑠璃を磨いて輝く宝石にするため動き出した計画だが、今のところ順調だ。成果が出るのは夏休み明けになるが、準備は着々と整えつつある。
まず、白銀虹海というコミュ力お化けが指導してくれるのは心強い。
目に見える変化はまだないが、そもそも白銀が喋り相手になってくれるのが大きい。これによって着実にコミュ力が鍛えられている。最大の課題だったので非常にありがたいところだ。
コミュ力はランキングに影響こそ少ないが、人間関係の構築術を学ぶのは学園だけでなくその後の人生でも大いに役立つ。
猫宮彩夢は洞察だったり、自己防衛の術について指導してくれている。
こちらは完全にランキングと関係ないが、人生という大きな括りで見れば一番有用かもしれない。
内気な性格でコミュ力に問題のある瑠璃が可愛くなれば多くの悪意に晒されるだろう。ナンパ男が近づいたり、変な事件に巻き込まれたりする可能性も上がる。これに対して警戒心が上がるのは兄として安心材料だ。
……まあ、教えている奴が一番危険なのはあるかもしれないが。
それに加え、猫宮というタイプの違う人間と話すのも大きいだろう。何度もいうが、我が妹のコミュ力と社交性はミジンコレベルである。
年上の、それも宝石と呼ばれる少女が会話の相手をしてくれるのであればそれだけでプラスになる。
ここまでは完璧であり、盤石だ。
後は外見を磨き、学力をアップすれば自ずと道が開けてくるというもの。
「――良い顔してるね」
白銀が声を掛けてきた。
「良い顔?」
「めちゃくちゃ良い顔してたよ。普段より二割増しでいい感じだった」
普段が自分でわからないので何とも反応しにくい。
「いろいろと上手く行ってるからな。今後も頑張ろうと思って気合い入れてた」
「……えっと、瑠璃ちゃんのランキングは下がってるけどいいの?」
「今は仕方ない。磨く前だからな」
「それでも、テストの結果はまずいんじゃないのかな。本人に聞いたけど、結構酷い点数だったよ」
俺はにやりと笑う。
「実はその問題も解決しつつある」
「あっ、もしかして新しい先生って勉強を教えてくれる人だった?」
「っ、知ってたのか?」
「瑠璃ちゃんから聞いたよ。私達と違う新しい先生を見つけたって。その人も瑠璃ちゃんを磨く計画に参加してくれるみたい」
すでに告知済みか。
この辺りの報連相ができるようになったのも成長と呼べるだろう。以前の瑠璃なら白銀に報告とか多分できなかっただろう。
「相手は誰か知ってるか?」
「聞いてない」
残念だ。
「夢原君が良い顔してたのはそれが理由?」
「半分な」
「半分?」
「俺自身も変わろうと思っている」
「……へえ、夢原君も本気出すと?」
大きく頷いた。
「元々今年から勉強する気はあった。しかし、それだけじゃ弱いと気付いた。瑠璃の足を引っ張らないためにも、俺自身も大きく変わろうと思ってる。具体的には自分磨きをするつもりだ」
夏休みに瑠璃と一緒にイメチェンでもしてみよう。
「おっ、やる気あるね」
「やる気満々だ。瑠璃の助けになれるからな」
そう言うと、白銀は楽しそうに笑った。
しまった。
あまりシスコン的な発言をしない方がいいかもしれない。すでに知られているだろうが、自分から好んで「シスコンです」というのはよろしくない。もし相手が自信満々にそう言ってきたら結構気持ち悪い。
「いいと思うよ、そういうの」
「本当か?」
「妹のために頑張ろうって思えるのは素敵だと思う。私も自分磨きに力を入れた理由が一緒だから。藍里に恥ずかしいところは見せられないから」
そういえば、白銀のところも姉妹の仲が良かったな。
やっぱり俺と白銀は似た者同士かもしれない。
会話していると、女子生徒の弾む声が聞こえた。盗み聞きするつもりはなかったが、どうやら弥緑の奴が廊下を歩いているらしい。
「……そういえば、真野とはその後どうだ?」
弥緑で思い出したので何気なく質問すると、白銀の体がわずかに震えた。
「すっかり嫌われちゃったみたい」
「理由は何だったんだ?」
「さあ、元々嫌いだったみたいだよ」
あれから白銀と真野の関係は学園の禁忌になっていた。
中庭の騒ぎは大きな話題となった。さすがに宝石の称号を持つ者が四人も集まればそうなるだろう。
様々な噂が流れた。
その中で最も流行している噂は弥緑を取り合って三人の宝石姫が争っているというものだ。猫宮は絶対に違うと少し考えればわかりそうなものだが、あいつの本性を知らないのだろう。
白銀を嫌う理由か――
真野は暗くて地味な子だった。誰かが話しかけても返事すらまともにできない。自分と真逆の白銀を気に入らなかったのだろう。
「昔から仲悪かったのか?」
「会うのはあれが二度目だから」
「そうなのか?」
「前回の時も特にお喋りしたわけじゃないし」
ほぼ初対面の状態でアレだったのか。
「気にしてないから大丈夫だよ。今後関わり合いになることもないと思うから」
「まあ、クラスも違うしな」
「そうそう。接点もないし」
接点がない。それは一番大きな理由だ。
それは俺も同じだ。昔はクラスメイトだったが、今は違う。このマンモス校で会う機会はそうそうないだろう。
「今日は瑠璃と喋る日か?」
「違うよ。私は火曜日担当になったから」
「……曜日で分けたのか?」
「そっ。私が火曜日で、彩夢が木曜日ね」
「なるほどな」
「月曜日の今日は新しい先生が担当するって」
新しい先生か。誰なのか楽しみだな。
それから時間は流れた。
今日も特に何事もなく授業を消化した。休み時間に一度弥緑と会ったくらいだ。あいつと喋っていると本当に女子の視線が痛い。
で、昼休み。
中庭に向かうと、すでに瑠璃が待っていた。
「おっす」
「いらっしゃい、お兄ちゃん」
相変わらず可愛い。
「今日は新しい先生役が来るんだろ」
「うん。そろそろだと思うよ」
「俺もここに居ていいか?」
「大丈夫だよ。そっちの方が都合がいいから」
都合がいい?
首を傾げていると。
「あっ、来たみたい」
瑠璃が校舎の方を見た。
そっちに視線を移すと、見覚えのある顔が近づいてきた。
「お待たせ、瑠璃ちゃん」
現れたのは、瑠璃に最も近づけたくないランキングがあれば1位を独走している真野珠理奈だった。




